⍰⍰ノ◼️“撤退“④
その背中が見えなくなっても俺は呼び続けた。その行動に俺を応急処置する衛生兵が抑える。
「待ってください!俺も戦います!リアムさん!」
「やめてください!それ以上叫ぶと傷が悪化しますよ!」
「そんな…」
【sideリアム】
俺は《深淵の森》の入り口に向かった。俺の後ろにはスタンピードに近づこうとする俺に逃げることを説得する者が何人かついて来ていた。
「無茶です!相手は災害級の被害を出す魔物数百体です!あなたが歴代騎士最強ということはわかっています。ですが、あまりにも無謀です!ここは撤退を」
「そんなことはわかってる。でも、ここは王国内だ。俺らが守らなければ誰がやるんだ?」
「そ、それは…」
「結局誰かが後始末をしないといけないんだ。もう俺は行くぞ」
「ですが、百人も満たない騎士では到底抑えられません!」
「なら、お前らはここに待機だ。これは団長命令だ」
「えっ? そんな……団長!」
俺はたった1人でダンジョン前に向かった。道中、元々ダンジョン内にいたと思われる魔物がダンジョン近くで彷徨いていた。やはり
「本当に
そう思うほど、静かだった……異常な程にいつもは人の声や、魔物の唸り声が反響して聞こえてくるが、その声すら聞こえてこない。なんだ?なにが起きてるんだ?そう思って帰ろうとしたが突如、ダンジョンの入り口から濃密な魔力の波を感じた。何かがくる。ダンジョンの入り口からはAランクモンスターの群れが走って出てきた。俺は急いで剣を構えた。
魔物は出てくるなり、俺に向かって走り出してきた。
俺は剣波で一気に魔物を倒したが、一匹撃ち漏らしていた。そいつに俺は気づき、俺に気づくなり走ってくるやつを倒した。
その後も続々と出てくる魔物を倒していった。討伐数が百匹を超えた頃、Sランク級の魔物が五体一気に襲ってきた。いつもなら冷静に対処できるが、ずっと戦ってきて倒す数よりも出てくる数の方が多いことに少し焦り、攻撃にも見え始めていたので突撃してしまいアイスフォックスの爪に利き腕の肩を引き裂かれてしまった。ドクン!ドクン!と心臓の鼓動が強くなってくる。スタンピードは2、3時間が経つと魔物は魔素が足りず、通常は死んでいく。長くても四時間だが、今回はS・Aランク級の魔物から発せられる濃密な魔素のせいであたりが魔素の霧に覆われ魔物が魔素不足でなかなか死ななかった。
「はあ…まぁ長く持った方じゃないか?」
俺は目の前に迫るSランクモンスターに向かって独語した。周りに戦うものはいない…俺が団長命令を出していたし当然か…
利き腕に怪我を負ったが、反対の腕を動かす。まだ動くな…よし、まだ戦える!
怪我した肩を紐で応急処置をし、余った紐で利き腕を剣に括り、もう一度スタンピードと戦い始めた。目の前に来ていた魔物を吹っ飛ばし、Aランクモンスターを踏み台にし、Sランクの魔物に脳天から剣を突き刺し、他の魔物に剣波で首を切り裂いていく。利き腕は使えないがそれでも十分だ。
魔物が目の前に来て、俺にとどめを刺そうとしたが、もう一体の魔物を誘導し相打ちにさせた。さらに戦いこちらもかなり疲弊してきた。はぁはぁと息も絶え絶えになりながらも魔物を倒していく。三時間ほどかけラストの魔物を倒し切った。これでスタンピードも終わった!と思ったが現実は残酷だった。
「なっ!嘘だろ⁉︎」
入り口を壊して、アイスドラゴンが出てきたのだった。
他の魔物ならまだしもドラゴンは鱗が硬すぎて歯が立たない。逆鱗を狙えばいいが、ここは地上…地下とは違い、機動力を獲得したやつにピンポイント攻撃するのはほぼ不可能だ。絶望に打ちひしがれても俺は立ち向かった。守りたい
「遠距離武器さえあれば…」
空中から降りてきた、アイスドラゴンにそう言った。奴は、こちらを睨みつけるような視線を送ってきている。あいつは俺に最後のとどめを刺しにきている。爪を振り下ろし、死を悟った…と思ったが、
「団長は無理をしすぐなんです———よ!」
「そうですよ、団長」
「お、お前ら、なんでここに!」
そこにきたのは、先ほど俺がくるなと命令を出したはずの騎士たちだった。
「たった1人で戦って、たまには私たちにも協力させてくださいよ」
「そうですよ。団長が全て抱え込まなくていいんですよ」
「よせ、お前ら!相手はドラゴンだ!魔法がなければ倒せない!」
「そこは対策済みです。全員準備はいいか!」
「「「「「おう!」」」」」
返事をしたのは弓を持った二十人の騎士だった。
「弓じゃあいつの鱗に対抗できないぞ!」
「なら、逆鱗を狙えばいいじゃないですか」
「あんな高いとこにいたら当たらないぞ!ここは退避だ!」
「下手な鉄砲数打ちゃ当たる。全員、撃てー!」
二十人全員が一斉射撃を始めた。全員がドラゴンの逆鱗目掛けて放つ。矢はドラゴンの頭や胴体、首に当たるが鱗が固く弾かれる。
「まだだっ!全員、自由射撃始めっ!」
その言葉を合図に、一部の人が弓に二・三本ほど矢を番、各自自由なタイミングで射撃をする。何本もの矢の雨がドラゴンに襲いかかり、そのうちの一本がドラゴンの翼にあたり、一瞬よろけ逆鱗が狙いやすくなった。
「今だ!全員撃てー!」
一斉に矢三十本がドラゴンの逆鱗目掛けて飛んでいく。しかし、弓手は全員騎士。今まで剣しか使ったことがなく、まともに弓を扱ったことがないため、15メートルも離れると命中率がガクッと落ちるが、流石に三十本もあれば何本かが逆鱗に命中し、無事撃墜した。
「アイスドラゴン撃墜!」
「よし!これで最後だ!」
「ははっ…ただの脳死攻撃じゃないか…」
そう言って俺の意識が途切れた。
◇
【side称矢たち】
スタンピードをたった1人で抑えていたリアムさんが担架に運ばれて来た。
利き腕の肩に激しい裂傷ができていた。
衛生兵は雑に済まされた応急処置を剥がし、傷を水で流し、丁寧に包帯で覆っていった。その後、リアムさんはすぐにベッドに運ばれた。
目が覚めたのは運ばれて来てから二十分ほどだった
「………ん………ァムさん…………リアムさん!」
「うわっ!なんだ敵襲か!?」
起きた瞬間、寝ぼけていたのか敵襲で叩き起こされたと思い、慌てて周囲を見ている姿の俺たちは思わず
「「「「くっ、あはははは!」」」」
笑ってしまった。仕方ないでしょ。いつも冷静沈着な人がこんな面白おかしいことを言ったら笑わない人はいないでしょ。
「おい、笑うなよ」
「いや、すいません面白かったのでつい…」
「…まあいい。怪我も治ってるし、助かったんだな」
「えぇ、助かりましたよ。あなたが無茶をして大怪我をしましたけど」
「大怪我ってほどでもないだろ」
「肩の傷、深いところで二センチも抉れていたんですよ⁉︎どこが大怪我じゃないんですか⁉︎」
「いや、怪我を受けた腕が動くならまだ大怪我じゃないだろ」
「大怪我とは(哲学)」
「そんな甘ったれて訓練をさせていたんだな…よし、もっと訓練を厳しくするか」
「「「「「「「「「それは勘弁してください!」」」」」」」」」
「なんだ?お前ら全員そんなこと言って強化して欲しいんだな」
全員がエコーがかかったみたいに叫び出した。中には意味不明なことまで言い始めた。
「ちょっと団長がなに言ってるかわからないな」
「ウワァァァ!死にたくない!」
「神は、我らを見放したのかっ!」
「…ひでえなこりゃ」
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