動き出す運命の歯車

リアムさんの口から出る言葉一つ一つが重くのしかかってくるような気がした。


「…………そうですか…そんなことが…」

「あぁ気にするな。俺は変わってしまったシルディたった1人の家族を守っていきたいんだ」

「…俺にも何かできることはありますか?協力させてください」

「ありがとな…でも、あいつのたった1人の自分の人生を棒に振って欲しくないんだ…その行動は他の人にもしてやれよ」


リアムさんの語尾がかすかに震える。シルディはそれほどリアムさんにとっての大切な弟だと伺えた。


「少し話しすぎたな…またな」

「え、は、はい」


リアムさんがドアの取手に手をかけ、開けようとした


「わ、わわわわわわ」


扉の方から聞き慣れた声がしてきた、と思ったその時には誰かが謁見室にズベシャ!と音を立て倒れ込んできた。


「ま、雅人。何してんの⁉︎」

「ご、ごめん。興味本位で観に来たら2人が何か昔話を話してたからつい気になって盗み聞きしてた」

「はぁ…全く。で、どこから聞いてたんだ?」

「えっと…名前なんだっけ…あ、リアムさんには、シルディっていう人が弟ってとこから聞いてました」

「ほぼ全部じゃねーか。この野郎」

「痛い痛い痛い!…た、助けて称矢〜」


リアムさんに頭を握られている友からの救助要請が来たが、俺はこう言った。


「自業自得だ。大人しくやられてろ」

「そ、そんな〜鬼!鬼畜!称矢のバカ〜!」

「あ?リアムさんもっとやっていいですよ。俺が責任とります」

「よっしゃ任せろ!」

「ウギャアァァァァァァァァァ!」


数分後

仰向けで倒れる友人を見て、俺もさっきはこんな感じだったんだなと思いつつ、さっきの復讐が少しできて俺は満足だった。雅人に刑を執行したリアムさんはどこかへ戻って行った、戻っていくときの顔は少し泣いていた気がした。と思い出しつつ、口を開いた。


「……これひっでぇ有様だなぁ」

「しょ、称矢もさっきはこんな感じだっただろ」

「そうだな、お ま えがあんなことしなければな」

「うぐっ…反論したくても自覚あるから何も言い返すことができない…」

「まぁ、こいつはいいとして、もうこっちの世界に来て半年近くが経つのか…」

「いや、僕の心配してぇ⁉︎」

「こっちの世界にも慣れてしまったな…」

「は、半年…か。長いようで短かったな…それより起きるの手伝ってよ」

「あーわかったわかった。あとでな」

「いや今にしてぇーーー⁉︎」


その後、俺は仰向けで起きれない惨めな姿の友人を起こし、部屋に戻っていった。

道中、何人かクラスメイトに会ったが、満身創痍で俺の肩を借りている雅人に驚きつつ、何かを言おうとしてそのまま通り過ぎていった。

…あとでこいつから聞き出すか。今度、何かあるのか。

起き上がった雅人に今度何かあるのか聞いたら特に無いようだった。しかし、悟が裏で俺を殺そうとしてきたことが噂として出回っているらしい。

みんなは、あまり嘘とは思っていないようだった。…まぁこの噂もしばらくしたら消えるでしょ。

この日はどこかから出てきた噂話だけで何も変化はなく一日が終わった。


次の日も、また次の日も…

ただ、必死に訓練をするだけで何も変わらない生活がもう半年続いた。来た当初は驚きと不安があったが、さすがに一年も経つと嫌でも慣れてくる。

自分たちは強い、特別だ。なんて全員が思い始めて、少しずつ性格が変わって行った。そんな奴らを俺はこの半年間で元の世界への帰還方法について調べたが、気づいたことは特になかった。様々な文献を読み漁ったが、一つに文献に載っていた伝承には帰還魔法はあったとされているが今となってはで、復活させることはできないらしい。…そのことが分かっただけでも一歩前進だな。と思いつつ、重い足取りで部屋に戻った。部屋を開けると、いつもはいない陽太がそこにはいた。


「…なんで陽太がここにいるんだ?」

「いいだろ、別に来ても」

「はぁ…で、要件はなんだ?」

「近々、あそこを攻略するらしいからそれを伝えに」

「…あそこ?」

「今度Aをクラスメイト全員で攻略するんだ」

「…Aランクダンジョン?」

「そうだよ…と言ってもAランク下位ぐらいのとこらしいよ」

「下位とはいえ、いきなりAランクからって相当鬼畜じゃないか?」

「別に、俺たちの実力的にどうということは無いんだが、攻略予定のダンジョンがしているらしいんだ」

「…つまり今回のダンジョン攻略に何かしらのイレギュラーが起きそうだってことだな」

「そうだ。あそこでは通常出てくるはずのない魔物の報告例が上がってるんだ」

「報告例…ね」

「ダンジョンは性質が変化する時が一番不安定な状態になるんだ。そんなことが起きているダンジョンに攻略なんて行かせるか?普通は。おかしいと思わないか?」

「確かに…ただでさえ貴重な戦力を失ってまで攻略しにいく意味が理解できない」

「そうなんだ。王族関係者の何人か、不自然な死を遂げている。おそらく、何かが裏では起きているんだろう」

「警備が手薄になったとこでの急襲という可能性もあるな…」

「戦力を分けるという手もあるんだが、行かんせんただのダンジョン攻略とは行かなさそうだ」

「で、そのダンジョンの名前ってなんなんだ?」

「ダンジョン名は。元々Aランク下位ほどの地下15層までのダンジョンだったが、一年ほど前から変化が始まった…《俺らがちょうどこっちに来た》》頃と一致する」

「俺たちがこっちに来た頃から、少数だが、ダンジョンの変異・相次ぐ王族関係者の不審死…」

「これは偶然ではなさそうだな…」

「こんな状況下でダンジョン攻略なんて?」

「まぁ、落ち着け。まだ国際情勢も安定してる。しばらくはいいはずだ」

「そ、そうだけど…」

「別に、どうという事はない…だったか?お前のさっき言ってた言葉だ」

「わかったよ…何が起きてもなんとかしてみる!」

「そうだ、その息だ」

「ありがとうな。おかげで緊張もほぐれたわ」

「こっちも久しぶり?に喋れてよかったよ」

「じゃあな〜」


さっきまで明るい雰囲気だった称矢の顔が一変する。


「どうという事はない…か。今はまだ弱いが俺たちが強くならなきゃ意味がない…



数日後、Aランクダンジョン[深淵の森]の攻略を告られた…ダンジョン変異の話は伏せられて。

みんなは特に変わった様子はなく、余裕の表情を見せていた。俺と陽太はあまりの衝撃で声が出なかった。なんで、なんで王は変異のことを伏せたんだ?


「よっしゃぁ!ストレス発散だぜ」

「まぁ、私たちにかかればどうという事はないよね」

「今なら魔王を瞬殺できる気がする」


クラスのみんなはいつもと一緒だった。しかし、暴力的な発言が増えてきたような気がする。王の話が終わりみんなそれぞれのパーティメンバーの元へ向かっていった。

俺は雅人と一緒に残りのメンバーの元へ向かった。


「ダンジョン…怖いけどちょっと楽しみだな」

「そうか…というか楽しめるか?」


雅人はうんと頷いたが、俺は別の意味で言った…変異しているダンジョンでそもそも攻略はほぼ不可能だろう…そして何より、ダンジョンが不安定な状態でイレギュラーが起きずに行って帰って来れるのかすらわからないのに楽しめるのか?ということを言った。


「このダンジョン攻略…何も起きなければいいが…」

「称矢?どうした」

「あ、いやいやなんでもない。緊張するな〜って思ってただけ」

「一緒に頑張ろうね」


雅人は目をキラキラさせていってきた。俺は作り笑顔で誤魔化し、外を眺めた…

攻略自体初なのに変異してるとなると一筋縄じゃいかなさそうだな…というか生きて帰って来れるのか?

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