第23話 空からの襲撃者

 森にはモンスターの痕跡がいくつもあって、食い散らかされた野生動物の死骸も残っていた。

 町の近くにあることを考えると……この森には日常的に、狩りや薬草・山菜の採取、材木の伐採などを目的に町の人々が訪れていたはず。

 モンスターが棲みついてしまって、さぞや多くの人間が困っていることだろう。


「これは残らず倒しちゃわないといけないねー。みんな大変だよー」


「そうね……できるだけ討ち漏らしが無いように進みましょう」


 四人は手際よくモンスターを倒しながら進んでいった。

 奥へ潜るほどに森はどんどん薄暗くなっていく。

 しばらく進んでいくと……ローナが警戒した様子で仲間を手で制した。


「待って……何か妙な音がするわ」


「モンスターか? どこにいるんだ?」


「見えないね。本当にいるの?」


 周囲を見回す四人であったが……頭上から大きな鳥の羽音が聞こえてきて、徐々に音が大きくなっていく。


「ピュイッ!」


「危ないよっ!」


「んっ……!」


 アイシスがレーナを抱きかかえて、後方に飛ぶ。

 直後、先ほどまでレーナがいた場所に人間ほどの影が突き刺さった。

 地面に鋭い鉤爪を突き立てているのは、左右の手に大きな翼を生やした人型のモンスターである。足に鋭い鉤爪を持っており、全身を七色の鮮やかな羽毛によって覆っていた。


「このモンスターは……ハーピーだ!」


 モンスターの正体に気がついたエベリアが叫ぶ。


 それは人型で有翼の怪物……ハーピーと呼ばれるモンスターだった。

 フォルムだけ見れば人と似通っているものの、言葉は通じず、時には人を襲って捕食することすらある獰猛な肉食の怪物である。


「ピュイッ!」


「コイツらがいるのは聞いていないな……!」


 情報に不備があったのかと歯噛みするエベリアであったが……ハーピーは産卵期以外には単独行動をする生き物のため、数が少なくて存在に気がついていなかっただけだろう。


「当たって!」


「ピュウッ!」


 ローナが弓矢を放つが、ハーピーはすぐに空に飛び立ってしまう。

 そのまま森の奥深くへと羽ばたいて消えていった。


「大丈夫、レーナ? 怪我はない?」


「ん……ありがと。助かった」


「うん、いいよー」


 アイシスが抱えていたレーナを地面に下ろして、ハーピーが飛んでいった方向に目を向ける。

 すでにハーピーは見えなくなってしまっている。ただ……どこに逃げたのか方角はわかった。


「どうするの? 追いかける?」


「そうだな……」


 エベリアが逡巡する。

 依頼主であるキンベルとの取り決めでは、森の深部にいるモンスターまでは狩らなくても良いということになっていた。

 だが……ハーピーは非情に凶暴であり、人間も襲う。

 襲われる人間の多くは小柄で持ち運びのしやすい子供ばかり。

 このまま放置しておけば、近くの町で子供が攫われる被害が出るだろう。


「……モンスターを狩りながら森の奥に進んでいき、発見したら倒すことにしよう。あくまでも依頼の範囲内で無理のないようにな」


「わかった。それじゃあ、あのでっかい鳥も見つけ次第殺しちゃうね」


「そうしてくれ。アレは空を飛んでいるから素手で倒せるかは怪しいが……まあ、アイシスだったらどうにかしてしまいそうだな」


 いくらアイシスでも、上空を飛ぶモンスターの頭を砕くことはできない……はずである。

 だが、それをどうにかしてしまいそうな常識知らずなパワーをアイシスは持っていた。


 四人は討伐対象にハーピーを加えて、頭上にも注意しながら森をさらに奥へと進んでいった。






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