第7話 登場
【何かしないと、アントンが殺されてしまう。】
全身の毛穴から汗が噴き出た。さっき締め付けられた首の痛みももう感じられない。
護身用に持っていた拳銃を抜いてかまえた。アントンの方向に向かって走り出しているハガネの後頭部に狙いを定めた。
同時に、さっき頭を打ち抜かれたはずの目玉のハガネが、ギシギシと身体を起こし始めているのに気がついた。
血に染まったナイフのような爪を立て、頭部の穴や目玉から緑の体液を吹き出しながら、こちらに走ってくる。怖い。
でも、アントンを見殺しにしてしまうほうがもっと怖い。アントンに飛びかかろうとしているハガネを狙って引き金を引いた。
指が引き金を引ききるのが先か、八つ裂きにされるのが先か。全てがスローモーションのように感じられた。
「ブオオオオン…!」
屋上から突然オートバイのエンジン音が聞こえたかと思うと、タイヤが頭のすぐ左をかすめ、ベキッと嫌な音がした。
すぐ近くまで迫っていた目玉のハガネの頭部にオートバイの前輪が接触して首が折れたのだ。ハガネの頭部は遠くに飛んでいった。オートバイはそのままパン屋のショーウインドウに突っ込んだが、乗り手はいなかった。
状況をつかめず混乱したが、すぐ横に巨大な銃をかまえたレンが立っていた。
私が命を懸けて撃った銃弾は、アントンに迫るハガネの背中に命中していたが跳ね返され、アントンとハガネの距離はもう3㍍ほどしかなかった。
【遅れた理由をなんと言ったら、オリビアに怒られずに済むだろう】
オリビアが目玉の大きなハガネに首を絞められているとき、近くのビルの陰に隠れていた。
ハガネが地上で人間の狩りを行うときは、必ず2体セットで動くのに、1体しか現れなかったからだ。
オリビアが危険だと判断したら、アントンが援護するのを知っていたし、近くに潜んでいるはずのもう1体を見つけたかった。
援護に入ったアントンを襲いにもう1体が出てくるという予想通りの展開だったが、ビルが一瞬で吹き飛ぶほどの攻撃をするとは思っていなかった。
アントンが簡単に死ぬわけはないと信じていたが、姿を確認できるまで、冷たい汗が流れ続けた。
危険な賭けだったが、登場のタイミングとしては申し分なかった。足元に転がるハガネの身体に片足を乗せて、銃を構える。
アントンに迫るハガネは、エンジン音で俺が現れたことに気付いているはずだが、一切振り返りもしない。侮られている。
ハガネとアントンの距離が2㍍ほどになった瞬間、引き金を引いた。
その直後、アントンが身体を捻って、レーザーナイフを鋭く振った。
アントンのタイミングは完璧だったが、刃はハガネの首に浅く切り込みを入れただけだった。レンの放った弾丸がハガネの後頭部に命中して全身に電流が走り、空中でバランスを崩したためだった。
全ての機能を停止したハガネはそのまま地上に落下し、ガシャンと大きな音を立てた。
目玉のハガネが現れてからわずか3分程度の時間が、一生のように感じられた。
ふうっと安堵のため息をつこうとした時、突然右耳を引っ張られて、我に還った。
「レンのばか!なんで遅れてくるの!」オリビアが泣きながら怒って耳をぐいぐい引っ張っていた。
「・・・家に女の子が来てて、すぐ追い返す訳にもいかなくて」
「こんなときまで、なんでアンタはそんな冗談ばっか言えるのよ!」オリビアは俺の頭を引っ叩いた。
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