第6話 戦闘
【人間を侮りすぎだ。愚かな奴め。】
頭を打ち抜かれて無惨に横たわるJ10048の様子を建物の陰から眺めていた。撃った人間は、探知されにくい電磁波を周囲に流して潜んでいたようだ。
しかし、J10048を撃った弾道から位置はすぐに特定できた。
最近は人間の抵抗力が失われて、新しい武器を実戦で使う機会も少ない。今回の狩りで、機会があれば左手に新しく装備したばかりのレーザー砲を使ってみようと思っていたので、丁度良かった。
ビル屋上を吹き飛ばした後、近くで女が泣き叫んでいた。今更そんなところで喚いても、あのビルにいた人間はもう助からない。人間の行動は無駄だらけで理解できない。涙を流して喚く女を蔑むような目で見た。
黒煙の上がる建物を見つめた。
驚いたことに、人間の気配がまだ感じられたからだ。
5階建の古いビルは黒焦げて、屋上部分は吹き飛んでいたが、その少し下の外壁で何かが動いている。若い人間の男が、片手でビルの壁に張り巡らされた配管に掴まり、ぶら下がっていた。
間一髪で屋上から飛び降りたようだ。
咄嗟の判断力と運動神経が素晴らしい。
レーザー砲は出力最大で撃ったので、エネルギーはあまり多く残っていない。
ただ、なかなか巡り会えない生きの良い人間をこのまま見逃す気にはならなかった。
左手の砲口だった部分を先の尖ったドリルに変形させ、男に向かって走り出した。
【死んだと思った。】
片手でビルの壁の配管にぶら下がっていた。オリビアに襲いかかったハガネを仕留めた直後、何かが光ったような気がした。その瞬間、これまで経験したことのないような悪寒が全身に走り、気がついたら屋上から飛び降りていた。頭で考えて行動したわけではなかった。身体が勝手に動いたのだと思う。
もし一瞬でも躊躇していたら、もうこの世に存在していなかった。ただ、今も死に直面しているのは変わらない。無防備に背中を晒し、ビルの壁にぶら下がっている。地面までおよそ15㍍。落ちたら確実に足を傷め、起き上って戦うことはできない。近くに飛び移れそうな場所もないし、上まで登るにもは時間がかかりすぎる。それらを一瞬で把握した。
首を回して敵の様子を窺った。巨大なドリルのような形をした左手を掲げてこちらに向かって走ってきている。近づいてきて串刺しにする気のようだ。
良かった。さっきのレーザーで、このまま何もできずに消し炭にされることはない。相討ちになっても必ずあのハガネを倒して、オリビアを逃がす。覚悟を決めた。
自由に使えるのは右手だけだった。起動すればレーザーの刃が飛び出す小型のソードを右の腰ベルトに挟んである。出力を最大にすれば、刃渡りは60㌢程度。
ぎりぎりまで動かず、敵が攻撃をかわせない距離に入った瞬間にナイフを抜き取り起動する。ぶら下がっている左手で身体を持ち上げ、その反動で敵側に身体をひねって敵の頭部を切り落とす。一連の動きをイメージした。
タイミング通りに動ければ、なんとか仕留められる。戦意に気が付かれないように、静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
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