第5話 戦いの始まり
【呪ってやる。なんで時間通りに来ないの。】
人気のない通りに一人立っていた。30年前は、道沿いにたくさんのカフェがあり、観光客や地元民で賑わっていたという。
向かいのショーウインドウのある店はパン屋だったようだ。
私は、ハガネから生き残った人びとが都市部を捨て、地下や山間部に避難してから生まれた世代。昔撮られた映画やドラマを通して、人間が華やかで明るい時代を長く過ごしてきたことを知っているだけだ。
前に観た大昔のS F作品で、便利な世の中を求めて人工知能を開発した人間が、進化しすぎたロボット達に反逆され滅びる話があった。近い未来、現実にその通りになると分かって作ったのか。他にも似たような話はたくさんあり、それだけ多くの人間が未来を予想できていたのに、流れを止められなかった。
なるべくしてなったのだと、絶滅という運命を受け入れようとしている人間も多いが、40代以下の世代は過去の人間の負債で未来を奪われたくないと抗っている。私もその一人で、レンやアントンと一緒に戦いに参加することを決めた。
かれこれ20分待っているが、レンは現れない。普通なら何か危険に巻き込まれたのではと心配するところだが、レンのことだ。何か理由があっても話さずに、堂々と言い訳して現れるに違いない。
レンは子供のころから、人の予想通りには動かない問題児だった。昔はレンを気ままでいい加減な性格の人間だと思っていた。しかし、わざとそう振る舞っているのだと、大人になってから理解した。
裏切り者のテオ・バルトの息子として、責任を背負わせようとしてくる社会に歯向かいたいという気持ちが子供の頃からずっとあるに違いない。
だけど、今回は許せない。私の身の安全をなんだと思っているんだろう。アントンと結婚するのが夢だったのに、死んだら絶対に呪ってやる。
突然、寒気に襲われた。顔をあげようとした瞬間、地面に強く叩き付けられた。ひんやりと、冷たくて硬い何かを首元に感じた瞬間、息ができなくなった。
遠のく意識の中でやっと状況を理解した。異様に目の大きいハガネが私の上に跨り、笑いながら首を絞めている。死ぬ。
ズドン!
銃声が聞こえると同時に、私の顔を覗き込んでいたハガネの頭から濃い緑色の液体が噴き出た。ハガネの身体が倒れ、ガシャンと無機質な音が響いた。
ハガネの巨大な目玉は左右反対方向を向き、頭部の穴と目や鼻の穴から緑の液体が溢れ出ている。
作戦は失敗した。
予定では、囮となった自分に襲い掛かってきたハガネを、レンが罠に嵌めて捕獲するはずだった。レンを援護する為に、付近のビルの屋上に潜んでいたアントンが、私の危険を感じてハガネを銃撃したのだ。
突然、閃光が走り、爆音が響いた。アントンが潜んでいるビルの屋上は吹き飛び、モクモクと黒煙が上がっている。心臓がキリキリと縮んでいく気がした。
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