第4話 襲来

【汚い。どうして人間は、こんなにも大量の血を噴き出すのか。】

 

 腕に付着した血をふき取りながら、殺した人間を眺めていた。服装からして訓練された軍人のようだった。恐らく、この近くにあるコロニーの警備か何かだったのだろう。


 今日は人間の捕獲が目的で、殺す予定はなかった。ただ、向こうから攻撃してくるようなら話は違う。


 「N5882。私はまだ殺し足りない」

 返り血を浴び、どす黒い色に染まった前髪を整えながら、J10048が言った。


 自分の役目は、J10048の見張りだった。ハガネには、それぞれシリアルナンバーがある。俺のように、10000未満のナンバーを持つハガネは、人間に使われることを目的として、人間によって製造されたモデルだった。


 一方、10000以上は、人間に反旗を翻したハガネが、人間を殺戮するために生み出したモデルだ。人間を殺すことで喜びを感じるようにプログラムされているため、人間に従うことを目的に製造されたモデルより制御が効かない。


 「俺たちは今、人間の個体数を管理するという目的があって存在する。目的が無くなったとき、俺たちの存在価値も失われる。だから人間を絶滅させるわけにはいかないし、殺せる数も限られる」


 J10048は、5人の男の血液でつくられた巨大な血だまりにしゃがみ込んでいた。

 「そんなこと、私も分かっている。だから、わざわざエデンで人間を飼って繁殖までさせて数を合わせているのだろ。今日の私の仕事は若い女を一人捕獲することだ。」


 「俺の仕事は、お前の見張りだ。次は殺すなよ」

 足元に転がっている男の頭部から目を逸らし、市街を眺めた。


 今いる広場は高台にあり、古い街並みを一望できることで有名な観光地だったらしい。人間達が美しいといった街は、今は瓦礫の山と化している。


 人間は、なぜか古いものに価値を見出す。昔、自分を所持していた人間の家にも、古い絵画や彫刻が飾られていた。

 それらをどう思うかと人間に尋ねられたとき、スペースの無駄だと答えた。それを聞いた人間は、寂しいと言った。古いものに想いを馳せ、美しさに感動することは、人間らしく生きる上で大切なのだと説明された。

 その感覚が理解できなかったが、寂しいと感じたことはない。


 「いる!3キロ先に若い女がいる!」

 J10048は興奮した様子で叫び、走り去っていった。


 いつハガネに襲われるか分からない日中に、人間の女が一人で立っているなど、ありえない。何か理由があるに違いない。

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