第13話
車が惰性で滑りながら進む中、ヴァイとエリシアは同時にドアを開け、息の合った動作で外に飛び出した。
車はそのまま滑り続けるが、二人はすぐに別々の行動を開始する。
ヴァイは一瞬も迷わず守衛所に突入。
銃を構えたまま、数人の係員を容赦なく射殺した。銃声が響き、係員たちは倒れ込む。
生き残った一人をヴァイは乱暴に引っ掴むと、強引にデスクの前に押し倒した。
「こいつだな……これを押せ!」
ヴァイは彼に強制的に何かのボタンを押させた。その瞬間、ステーション内に何かが起動したような低い音が響き渡る。
次の瞬間、ヴァイが押させたボタンに反応して、頑丈なゲートがスムーズに開いた。重厚な扉がゆっくりと外側にスライドしていく。
「ちっ、遠いな!」
ヴァイが苛立ち混じりに吐き捨てる。
「あら、運動不足ですの!?」
エリシアは軽く笑いながら、もう既に前を向いて走り出していた。
二人は広大な敷地をまるで短距離走選手がマラソンに出場したかのように駆け抜ける。
ステーション内の施設は彼らを拒むかのように広がっていたが、スピードを落とす気配はない。
遅れてサイレンが響き渡る。
「非常事態、非常事態、アルファー、ブラボー、直ちに対応せよ。」
警告の声がスピーカーからこだまし、彼らの背後には騒然とした空気が広がっていたが、二人はそれに一切振り返ることなく走り続けた。
二人の行く手に、ゾロゾロと立ちはだかる部隊が現れた。彼らは即座に銃を構え、一斉に発砲する。
その瞬間、エリシアが手を前に突き出した。
「……邪魔ですわ!」
光る幾何学的なホログラムが彼女の手元から浮かび上がり、瞬く間に広がる。
鋭く甲高い音を立てながら、放たれた銃弾が次々とホログラムに当たり、弾かれていく。跳ね返された弾丸は四方に散らばり、部隊は一瞬ひるんだ。
エリシアは微笑を浮かべながら、冷静にその場を見つめていた。
エリシアの光る幾何学的なホログラムが銃弾を跳ね返す中、その防御の後ろからヴァイが冷静に動き出した。
「今だ。」
彼は片手で拳銃を構え、一発ずつ、正確かつ素早い動きで狙いを定めた。
銃声が響くたびに、立ちはだかる部隊の兵士が一人、また一人と崩れ落ちていく。ヴァイの射撃はまさに無駄がなく、スムーズにターゲットを排除していく。
「見事なコンビネーションですわね!」
エリシアが笑みを浮かべながら、ホログラムを維持していた。
エリシアが手を広げると、その先に圧縮された火炎が瞬く間に生まれ、部隊に向かって放たれた。
「燃え尽きなさい!」
次の瞬間、轟音と共に爆発が発生し、濃い煙幕が一帯を覆った。兵士たちの悲鳴が響き、前線は火の海に包まれた。
ヴァイは冷徹な目で状況を確認し、炎で焼け焦げた兵士たちの中を突っ切る。彼は焼死体を踏みつけながら無造作にマシンガンを回収し、すぐに走り出した。
「いい火力だな!」
彼の声に少しの興奮が混じっていたが、そのまま無駄なく前進を続けた。
ヴァイは無言のまま突然進路を変え、詰所と思われる建屋に止まっている車両へと一直線に向かった。
「車が無料だぞ!」
彼は皮肉っぽく笑いながら叫ぶ。
エリシアは軽くため息をつきながら、ヴァイの後を追いかけた。
ヴァイは一瞬の判断で、運転席の窓ガラスを肘で破った。ガラスの破片が散らばる中、彼はすぐさまハンドル下の何かのカバーをバキッとむしり取った。
「急げ、急げ!」
エリシアが後ろから声をかけるが、ヴァイは冷静に動き続ける。
彼はそのまま生体ポートを接続し、車のセキュリティシステムに侵入を試みる。瞬時にデータが流れ込み、彼の脳内で情報が解析されていく。
システムのロックが解除され、エンジンがかかる音が響いた。
屋根に銃撃が降り注ぐ中、ヴァイはアクセルを踏み込んだ。車は轟音を立てて動き出し、目指すはスペースシップ。
「行くぞ、エリシア!」
彼の声が響く。
エリシアは後部座席から外を見つめ、敵の動きを確認する。弾丸が車の屋根に当たり、金属音が響く。
「早く逃げないと、やられますわ!」
彼女は焦りを隠せずに叫んだ。
ヴァイは視界の隅にスペースシップを捉え、さらに加速を続けた。
エリシアはヴァイからマシンガンを素早く抜き取り、後方に向けて銃口を構えた。発砲音が響き渡り、敵の車両のタイヤを狙って一気に掃射する。
「映画の見過ぎだ!」
ヴァイが驚いた声で叫ぶが、エリシアは冷静さを保ちながら反撃を続けた。
しかし、何発撃ってもタイヤはパンクしない。エリシアは苛立ちを覚える。
「ちっ、魔法は疲れるんですもの!」
彼女は不満げに言った。敵の車両は未だに追撃してきており、状況は厳しいままだった。
ルームミラーを睨むヴァイの目が鋭くなった。後ろの車の助手席から、何かを担いだ隊員が躍り出てきた。
「——グレランか!」
ヴァイは焦りを隠せず叫ぶ。
「エリシア!」
「分かってますわよ!」
エリシアは助手席から身を乗り出し、周囲の状況を見極めながら指を振る。
すると、火炎と大気が一気に圧縮され、彼女の周囲に強力な魔法の力が集まっていく。
エリシアの目が鋭く輝き、力強いエネルギーが溜まっていくのを感じた。次の瞬間、放たれるのは圧倒的な攻撃。
激しい閃光がヴァイの目を焼く。エリシアの魔法が炸裂し、後方で起きた爆発の衝撃が車内にまで響き渡った。
ルームミラーの向こうで、警察車両が何メートルも吹き飛び、他の車両を巻き込みながら次々と爆発炎上していく。
「何が起きた!?」
ヴァイは目を細め、混乱する中で状況を把握しようとした。炎と煙が立ち込め、視界が遮られていく。
「後ろを気にしなくていいですわ!」
エリシアは自信満々に言い放つ。彼女の魔法の威力に圧倒された警察は、これ以上追いかけてこられないだろうと確信していた。
「行くぞ、エリシア!」
ヴァイはアクセルを踏み込み、前方に進むことを決意した。
スペースシップが目前に迫る中、エリシアは軽口を叩いた。
「もう後には引けませんわね!」
ヴァイは視線を前方に向けながら、少し不敵に笑った。
「正義のヒーローじゃねえんだぞ!」
エリシアはその言葉に軽く笑い、彼の横顔を見つめた。危険な状況にありながらも、二人の心には共通の目的があった。彼らはこの瞬間に全てを賭けるのだ。
ヴァイは叫びながらスペースシップに乗り込んだ。
「こいつが起動するまで、遊んでやれ!」
スペースシップは常時オンライン状態で、遠隔で停止させることもできる。ヴァイの生体ポートを使っても、ファームウェアの塗り替えには少し時間がかかる。
「置いて行ったら撃墜しますわよ!」
エリシアが後ろから声をかける。彼女はスペースシップの乗り口でヴァイを急かしながら、外の状況を確認していた。
「大丈夫、すぐに終わる!」
ヴァイは素早く端末を操作し、システムにアクセスしながら応じた。周囲の騒音が高まる中、彼は時間との戦いを続けた。
街の街頭テレビのスクリーンには、煙が立ち込めるポリスステーションの映像が映し出されていた。
「つい先ほど、警察本庁が何者かによって襲撃されました!ご覧ください!あれは車両ですかね?何台の車両が炎上しています!」
アナウンサーの緊迫した声が響き渡る。
「そして正門ゲート前には横転した車があります。現時点ではテロリストとの関係は不明!」
画面には混乱する警察官や逃げ惑う市民の姿が映り、状況の深刻さが伝わってくる。
人々はその光景を呆然と見つめ、何が起こったのか理解できずにいた。恐怖と不安が街中に広がり、騒然とした空気が支配する。
次の瞬間、テレビ画面に当局の幹部が映し出された。
彼の顔は険しく、苛立ちを隠しきれない様子だった。
「ええい!戻ってこい!サイト-9じゃねえんだよ!見りゃわかんだろ!」
彼は怒声を上げ、周囲のスタッフに指示を飛ばす。
「え?警察本庁?ほっとけよ!あっちはあっちでなんとかしろよ!」
別の声が聞こえ、幹部の反応がさらに苛立ちを増した。
「もういいよ!カメラども出ていけや!ぼけえぇ!」
彼の叫び声が響き渡り、カメラの前でさらに混乱を引き起こす。映像は不安定になり、現場の混沌とした状況を映し出し続けた。
マスコミのヘリが警察本庁の周りを周回する中、エリシアはものすごい勢いで隊員たちを次々と殴り飛ばしていた。
彼女の動きは流れるようで、まるで戦闘舞踏のように見えた。隊員たちはエリシアの素早い攻撃に対抗できず、次々と地面に倒れ込んでいく。
「これが私の力ですの!」
エリシアは自信満々に叫びながら、周囲の混乱を楽しんでいるかのようだった。ヘリの回転音が響く中、彼女は敵を圧倒し続けた。
周囲の状況を把握しながら、次に何をすべきか考える余裕を持ち、彼女は冷静さを失わずに戦っていた。
隊員たちは一瞬、銃器を持っていないエリシアを撃つのに戸惑った。
彼女の目の前で繰り広げられる光景に、武器を向けるかどうかの判断が鈍ったのだ。
その瞬間、エリシアは隙を突いて動き出した。彼女の動きはまるで流れる水のように滑らかで、隊員たちの心の迷いを許さなかった。
「迷っている暇はありませんの!」
エリシアは瞬時に一人の隊員に近づき、素早く彼の足元を掬うように攻撃した。倒れた隊員が周囲の仲間に衝撃を与え、その隙にエリシアは次々と攻撃を繰り出していく。
彼らの戸惑いが命取りとなり、混乱が広がる中、エリシアはさらなる攻撃を続けた。
ヴァイはFWのターミナル上で迅速に上書きのコマンドを実行した。
彼の指がキーボードを叩く音が静かな室内に響き、緊張感が高まっていく。
ターミナルの画面には、古めかしい「MSゴシック」のフォントで表示された文字が浮かび上がっていた。無機質なデザインが目に入る。
「75%」と表示され、進行状況が示される。
「あと少しだ……」
ヴァイは自分に言い聞かせるように呟き、目を凝らして画面を見つめ続けた。周囲の状況は厳しく、時間との戦いが続いていた。
コックピットの窓越しに、エリシアが何かを放出しているのが見えた。
閃光が瞬き、周囲を明るく照らし出す。その光景は、まるで胃の中身のような惨状を引き起こしていた。
ヴァイはその様子を見て、思わず顔を顰めた。
「敵じゃなくてよかったぜ…」
彼は安堵のため息をつきながら、エリシアが持つ力の恐ろしさを再認識していた。周囲の混乱が続く中、彼女の強さがあったからこそ、今ここにいるのだと感じていた。
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