第12話

 ヴァイは急に動き出し、ポケットから端末を取り出した。


 素早くデータを検索し、商業船の航行記録や貨物リストにアクセスする。彼の思考が高速で動き、ある可能性に気づいた。


「まさか……あいつら、あれを……。」


 ヴァイは画面を見つめながら、何かの手がかりを掴もうとしていた。


 ヴァイは端末を握りしめ、額にしわを寄せながら、運輸当局のデータベースにアクセスしていた。指が素早くスクリーンを滑り、情報を次々と検索する。




「……災害防止のために、運行可能なエリアは厳格に決められているはずだ。」




 彼は低く呟く。


「だが、あんなデカい船が、こんな街の真ん中を通過するなんてあり得るのか?」




 データベースを探ると、すぐに異常に気づいた。その商業船は規定外のエリアを通過している――本来、都市の中心部には進入できないはずの船が、今まさに街を横切っていたのだ。




「……おかしい。これ、意図的にルートを変更されてるな。」


 ヴァイは目を細め、画面に映し出された異常な運行記録を確認した。




 次の瞬間、ヴァイは何も言わずに突然走り出した。




 驚いたエリシアは、慌てて彼の背中を追う。


「どうしたんですの!?」


 エリシアが声を上げるが、ヴァイは振り返りもせず、走りながら叫んだ。


「厳戒態勢で気づいてねえのさ!サツのボンクラどもはな!」


 彼の声には焦りが滲んでいた。


 サイト-14が厳戒態勢にある中、運行記録の異常が見逃されていることに気づいたヴァイは、今すぐに行動を起こさなければならないと感じていた。


「あのデカい船が街に入ってくるのは、ただの偶然じゃねえ!奴らが何か仕掛けてる!」




 ヴァイは突如、赤信号を無視して道路に飛び出した。




 周囲の車は慌てて急ブレーキをかけ、スリップ音が響き渡る。


 ヴァイはその中の一台に目をつけ、躊躇なく運転席のドアを開けると、驚いた運転手を強引に引き摺り下ろした。




「いい車乗ってんなぁ!貸せや!」




 運転手は驚愕したまま、口を開けて何も言えない。ヴァイに軽々と放り投げられ、路上に転がる。彼の頭の中は何が起きたのかすら理解できていない様子だった。


 遅れてやってきたエリシアは、転がる運転手に軽く微笑みながらウインクを送る。




「言っておきますけど、デートじゃありませんの!」




 その言葉を残し、彼女は車に乗り込んだ。


 車のエンジン音が唸りを上げ、回転数が一気に6000回転まで吹け上がった。


 前輪が浮くほどの勢いで急発進し、ヴァイは無数の車を縫うように過激な進路変更を繰り返していた。


「どこへいくつもりですの!?」


 助手席でエリシアが声を上げる。




「ポリスステーションだ。ちょっとアレを借りるだけだ。」


 ヴァイは涼しい顔でアクセルを踏み込み続ける。


 車は湾岸線に続くランプを猛スピードで駆け抜け、助手席の窓からは、傾きかけた太陽が海面に反射してキラキラと輝いていた。


 遠くに見えるのは、警察当局のスペースシップが並ぶ基地。どの船も、すぐに発進できるようにスタンバイされている。


「ふぅん、借りる……ねぇ?」


 エリシアは軽くため息をつきながらも、その目はしっかりと前方を見据えていた。




 ヴァイは片手でハンドルを軽々と操りながら、ジャケットの内側から9mmのAutomaticを取り出した。




 冷静にマガジンを装填し、歯でスライドを引いて弾く。その動作は、あまりにも手慣れたものだった。


「服が汚れるから帰ったほうがいいぜ?お嬢さん。」


 彼は軽い口調で言うが、その目は油断なく前方を見据えている。


「ご冗談を。」


 エリシアは涼しい顔で返す。




 だが次の瞬間、彼女のこめかみに銃口が突きつけられた。




「アノマリーはクライアントの物だ。お前の手には渡らねえぜ?」


 ヴァイは微笑を浮かべるが、その言葉には鋭い緊張感が漂っている。




 しかし、エリシアはその挑発に動じることなく、一瞬で拳銃を掴み、親指でハンマーを押さえた。




「もちろん。」


 彼女は静かに言ったが、その瞳は決して引かない強さを見せていた。


 「その代わり報酬は山分けですわよ。」


 エリシアは微笑を浮かべながら、ヴァイの手から銃を軽く押し返す。




 車は猛烈なスピードで工業地帯にあるポリスステーションのゲート直前まで迫っていた。




 守衛の係員が口をぽかんと開ける様子がエリシアの視界に一瞬入る。


 直後――ヴァイは迷いなく直線ドリフトを仕掛けた。タイヤが悲鳴を上げ、車は信じられない角度でゲート横の守衛建屋めがけてスライドする!




 ——GYAAAAAAA!!






 守衛の悲鳴が響く中、車はギリギリのタイミングで建屋をかすめ、一直線にポリスステーションの敷地内へと突き進んでいった。

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