第14話

 上空のヘリコプターが、今の惨状を中継している。


 カメラの映像は、混乱と爆発の光景を捉え続け、街の人々はその様子を見つめていた。




「あ、カメラ!止めて!もういいから!」




 アナウンサーの焦った声がヘリから発せられるが、街頭TVでは映像が切り替わり、綺麗な湖畔を滑るボートの映像が流れ始めた。


 視聴者たちはその美しい風景に目を奪われるが、肝心の音声はそのまま残っていた。




 遅れて「ゴオオオオォ!キイイイィン」という何かが飛び立つ音が聞こえ、視聴者たちの不安をさらに煽る。状況はますます混沌としていた。




 街ゆく人たちは唖然として、音声に耳を澄ませていた。混乱の中、スピーカーから流れるアナウンサーの叫び声が響いてくる。




「あぁ!こっち来る!こっち来るって!下がれ下がれ!うお!……あっぶねえぇ!」




 その声には恐怖と緊迫感が満ちており、周囲の人々は目を見開いて恐れおののく。何が起こっているのか、状況を把握できずに立ち尽くす者たちの中で、パニックが広がり始める。


 人々は道を離れ、必死に逃げるための場所を探し始めた。恐ろしい未来を感じ取り、状況が一瞬で変わる可能性に身を震わせていた。




 エリシアはスペースシップの内部をゴロゴロと転がっていた。




 壁にぶつかりそうになりながらも、その表情には明らかに不機嫌さが滲んでいた。金髪が乱れ、眉間にはシワが寄り、まるで何かに苛立っているようだった。


「おぉ〜、何遊んでんだ?」


 ヴァイが半笑いで言った。彼はエリシアの様子を見て、少し呆れたような目を向けている。


「ちょっと!貴族ですのよ!私は!」


 エリシアは不機嫌そうに声を上げ、身体を起こしながら、怒りを抑えきれない様子だった。彼女のプライドが、周囲の状況に対する苛立ちとともに強く表れていた。




 輸送船に偽装されたアジトの奥で、バイトはテレビを見ながら眉を顰めていた。




 映像には、混乱したポリス・ステーションや炎上する車両が映し出されており、彼の表情には明らかな不満が浮かんでいる。


「誰がやったんだ!?あんなの計画してねえ!」


 バイトは声を荒げ、周囲の静けさを破った。彼は自分の思惑とは裏腹に、予想外の事態に直面していた。画面から目を逸らせず、次の一手を考え込む。




 確かに複数の闇バイトに無差別テロを依頼しているが、バイトはわざわざ警察当局そのものを攻撃するような馬鹿げたことはしていなかった。そのような行動は、計画に悪影響を及ぼす可能性があるからだ。




 バイトは再びテレビに目を向け、画面に映る混乱を見つめながら、冷静さを保とうとした。しかし、内心は動揺していた。


「俺の指示に従って、目立たずやれと言ったはずだ……」


 彼は低く呟き、手を拳にしてテーブルを叩いた。自分の思惑が崩れるのを恐れ、次の行動を急ぐ必要があると感じていた。


 部下が慌てて走ってきて、息を切らしながら叫んだ。




「大変です!」




 バイトは視線を向け、部下が持っているタブレットを確認する。


 そこに表示されていたのは、一般人から車を奪い取るヴァイとエリシアの画像データだった。映像は鮮明で、二人の行動がまるで暴力的な強奪の瞬間を捉えている。


「これが何の意味がある?」


 バイトは冷静さを取り戻そうとしたが、内心は焦りでいっぱいだった。彼は頭を抱え、事態がどれほど深刻かを理解する。


「急いで対策を考えろ!奴らを捕まえなければ、こっちに影響が出るぞ!」


 バイトは部下に指示を出し、次の行動を急ぐように促した。彼の心中は、計画が崩れることへの不安でいっぱいだった。




 あらゆる符号がつながる瞬間、バイトの頭の中で閃光が走った。




 ヴァイ、警察本庁の強襲、さっきのテレビの変な音声。


「まさか——」


 彼は驚愕し、コーヒーをぶちまけながら慌てて立ち上がった。


「アノマリーの解析はまだか!?」

「もう直ぐです!コンパイルに取り掛かっています!」


 部下が急いで答える。焦りの色を隠せない。


 バイトは考えを巡らせ、事態の深刻さを感じ取った。解析が完了しなければ、彼らの計画が台無しになる可能性がある。急ぎ足で部下の元へ向かい、次の手を打つための準備を整えなければならなかった。




 音をも置き去りに、スペースシップが巨大な商業船に接近していく。




 周囲の景色が速いスピードで流れ去る中、ヴァイは冷静に操縦桿を握りしめていた。


 数回のキータッチで、スペースシップの下部からミサイルのホルダーが出現した。


 金属音が響き、システムが正常に作動していることを示している。




「機体の後ろに格納庫があるな。」




 ヴァイは一言呟く。彼は操縦しながら、電脳化された領域で商業船のメーカーのデータベースにアクセスしていた。必要な情報を手に入れ、作戦の準備を進める。


 その間、エリシアは彼の動きを見守りながら、次の行動を待っていた。状況は緊迫しているが、彼らの心には決意が満ちていた。


 ヴァイは前を向いたまま、エリシアに言った。


「時間がねえぞ。しばらく経ってんだ。アノマリーが「そこ」にあるうちにな!」


 彼はデータベースにアクセスし、船のレイアウトを瞬時に把握する。周囲の情報が頭の中で整理され、あらゆる可能性をシミュレーションする。




 アノマリーを解析するには普通のコンピューターでは無理だ。だが、電気工事なんてのんびりしたことはやらねえはず。


 となれば——。


「EGSか。」


 彼はつぶやく。




 Emergency Generator System、つまり非常用電源室。




 そこしかない。生死の境を渡り歩くテロリストにバックアップなんかいらねえ!


「行くぞ、エリシア!急がないと間に合わなくなる!」


 ヴァイは操縦を続けながら、エリシアの反応を待った。彼の目には決意が宿っていた。


 ヴァイは目標をセンターに据え、スイッチを握った。




 緊張感が高まる中、彼の指がスイッチに触れた瞬間、ぶら下がったミサイルが反応する。


「発射準備完了!」


 彼の心臓が高鳴り、瞬間的な静寂が広がった。




 ミサイルが格納庫のハッチ目掛けて飛来し、鋭い轟音を立てて空を切り裂く。




 エネルギーを纏ったその姿は、まるで矢のように一直線に進んでいく。周囲の景色が一瞬で遠くなる中、ミサイルは狙い定めたターゲットへと迫っていく。


「これで一気に突破だ!」


 ヴァイは叫び、直感的な判断で次の行動を決めた。ミサイルが格納庫に命中する瞬間を待ちながら、彼の目には勝利の光が宿っていた。

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