第9話



 サイト-14全体が騒然としていた。




 街の至るところで、巨大なスクリーンや電子掲示板が最新のニュースを流し続けている。カフェやバー、駅の待合所ではワイドショーが大きな音で放送され、人々は不安げに画面を見つめていた。




「サイト-14で発生している事件について、続報が入り次第お伝えします!」




 アナウンサーが力強い声で叫び、次々と憶測が飛び交う。


「テロリストがコアを狙っているという話もありますが、真相はまだ不明です!」


「各地で目撃された不審者たち、これが事件とどう繋がっているのか――」


 ラジオも同様に、街中に響き渡るように流れている。


「管理局がプレスカンファレンスを開く予定です!すぐに対応を発表するとのことですが、まだ詳細は不明です!」




 管理局が対策に乗り出そうとしているという噂が広まり、街の中心部では、多くの記者や市民がプレスカンファレンスを待ち構えていた。管理局の建物の前にカメラが並び、マイクを手にした報道陣が、今か今かと公式発表を待ち続けている。




「コアが狙われているとなれば、サイト-14の存続が危うい。今後の対応がカギになるだろう。」


「一刻も早い発表を望む声が多い中、管理局がどのように対応するか注目が集まっている。」




 厳戒態勢が敷かれたサイト-14では、すべての発着便が運行中止となっていた。




 それにも関わらず、チケット売り場には逃げ出そうとする人々が殺到し、混乱が広がっていた。カウンターには長蛇の列ができ、予約システムは限界に達しつつあった。


「何で止まってるんだ!」

「今すぐ脱出させろ!」


 民衆たちの怒号が売り場に響き渡る。


 無秩序な状態に陥った場所では、スタッフが対応に追われていたが、事態は一向に収まらない。セキュリティが必死に人々を押し留めようとしていたが、その勢いは止められそうにない。


 一方、オンラインの予約サイトも限界を迎えていた。


 アクセスが集中し、サーバーがダウン寸前。画面に表示されたエラーメッセージに苛立ち、逃げ道を探す市民たちの不安と怒りが増幅していく。


「くそっ、サーバーが落ちた!」

「もう無理なのか!?」


 サイト全体が恐怖に包まれ、避難を試みようとする民衆たちの叫び声が、広場や通りにこだましていた。




 混乱の中で、民衆は二つの勢力に分かれていた。




 一方には、テロの恐ろしさに震え、絶望に駆られている者たちがいた。


 彼らは目の前の状況を逃れる手段を必死に探し、チケット売り場や発着場に殺到していた。恐怖に支配され、あらゆる方法で脱出を試みる姿は、混乱をさらに助長していた。


「もう終わりだ……サイト-14が崩壊する!」

「逃げないと、全員死ぬんだ!」


 その声には恐怖と絶望が色濃く混じり、周囲にも不安を伝播させていた。




 一方で、冷静を保ちながら、当局によって事態はすぐに沈静化されると信じている者たちもいた。




 彼らは現場に足を止め、当局がテロを抑えるだろうと確信していた。


「管理局が対応するさ。ここまで来るのに奴らがどれだけ苦労したと思ってる?」


「大したことじゃない、すぐに当局が動いて片付けるさ。逃げ惑う必要なんかない。」


 彼らは無駄に動かず、冷静に事態を見守っている。しかし、その冷静さが、今の状況を軽視しているとも思われ、民衆の間には明らかな温度差が生まれていた。




 二人は、混乱と怒号が渦巻く中を、まるで無関心かのように歩いていた。




 民衆が押し寄せるチケット売り場や、絶望に駆られる人々の中をすり抜け、ヴァイとエリシアは目的地へと進んでいく。


 ヴァイが周囲の混乱を一瞥し、軽く笑いながらエリシアに問いかけた。


「どう思うよ!?」


 エリシアは一瞬だけ群衆を見つめ、冷静な微笑を浮かべた。




「私なら……むしろ『ここ』の中に入ってしまいますわね。」




「離れたところで当局に時間を与えるだけですもの。むしろこのカオスの中心にいれば、動きやすくなりますわ。」




 彼女の声には冷静な自信が漂っていた。ヴァイはその答えを聞き、ニヤリと笑った。


「さすがだな。」




 「うん……?」




 エリシアは足を止め、何かに気づいたように目を細めた。言葉を発するや否や、素早くヴァイの手元から端末を奪い取った。


「おい、なんだよ!?」


 ヴァイが驚いて問いかけるが、エリシアは無言で先ほどの映像を巻き戻し、じっと画面に見入っていた。




「……これですわ。」




 彼女の指が画面上の細かい動きに止まり、何かを見つけたように微かに微笑んだ。

 エリシアは映像をじっと見ながら、先ほどのコメントに思いを巡らせた。




「さっきの『これサイト-9じゃね?』という最初のコメント……」




 映像を巻き戻し、バイトの背後に映っていた「9」の文字を確認する。確かに、その数字は微かに見切れていた。


「でも、いきなりそう断言するには……早すぎますわ。」


 エリシアはその点に疑念を抱いていた。確かに「9」が映り込んでいたが、それだけで「サイト-9」と断定するのは不自然だ。


 何かしら別の情報を事前に掴んでいた者が、意図的に噂を広めようとしている可能性が高い。


「まるで、誰かが最初からそこに誘導しようとしていたようですわね。」


 ヴァイもエリシアの言葉に気付き、少し考え込んだ。




 ヴァイはエリシアの推測を聞き、言葉を発さずに動き出した。




 無言で背中からケーブルを取り出し、生体ポートに接続する。金属の光沢が鈍く光り、その手つきは手慣れていた。


「……」


 彼は集中した様子で端末とリンクし、情報に直接アクセスし始めた。


 ポートを介して情報が一瞬で彼の体内に流れ込み、通常の方法では得られないデータを瞬時に分析することができる。


 エリシアはそんなヴァイの様子を黙って見守っていた。彼が生体ポートでアクセスするたびに、何か大きな突破口が見つかる予感が漂っていた。




 ヴァイはケーブルを生体ポートに接続すると、無言のまま非合法なCFWを使って端末にアクセスし始めた。彼の体内にインプラントされた特殊な技術を駆使し、通常の手段では掴めない情報を強引に引き出していく。




 彼の指がスクリーン上を滑るたびに、SNSに残された「これサイト-9じゃね?」という最初のコメントを解析していく。


「……」


 コメントの背後に隠された情報を追い、彼は瞬時に使用された端末の識別データや、発信された地区IDを引き摺り出した。


 通常ならば、プライバシー保護の壁が立ちはだかるはずだったが、ヴァイの非合法なツールは、その全てを容易に突破していく。




「地区ID、取得……端末情報、特定。」




 彼の目には、使用された端末のデータが浮かび上がってきた。その端末は意図的に場所を偽装していたものの、ヴァイの技術を前に、その隠蔽工作は簡単に暴かれていく。




「このコメント……どこかのプロが絡んでるな。」




 ヴァイは冷ややかに呟きながら、端末に映し出されたデータをさらに掘り下げていった。

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