胡栄町の魑魅魍魎事件簿

饕餮

第1話非日常を添えた日常

電車。

現実と夢を行ったり来たり。

甘い微睡に体が浸っていく。


ちょうどいい感じに眠れそうな時に、日差しが眼に降り注ぐ。


「...ふぅわぁあぁああ」


欠伸をする。

むぅ。

目覚めてしまった。


三大欲求の内の一つ。

睡眠欲。

これを妨げられること、すなわち人権の侵害である。


そんなことを自然に言っても(というか思っているだけだが)、人工の規則を押し付けることはできない。


だから僕は仕方なく起きる。

起きて、次の駅を確認する。


次の駅は僕の目的地であった。

......危ねぇえぇぇぇ。


先程の発言を訂正しよう。

人権の侵害ではなく、神権の御業である。


僕は急いで立ち上がる。

ちなみに僕は席に座っていなかった。

電車の床に座っていた。


何故かって?

床に座る方が直に振動を感じ取れて、心地良くなって眠りやすいからだ。

普通は逆かもしれないが、僕はそうではない。

だから床に座って電車に乗っているのだ。


今の時間帯は午後2時だから、人間が少ない。

故に誰にも迷惑がかからない。


尚且つ8月上旬という学生諸君にとって天国の月だ。

迷惑のかけようがない。


『まもなく胡栄こさかい、胡栄。お出口は左側です』


電車のアナウンスが鳴り響く。

僕は扉の前に移動する。


それにしてもこの町か。

結構な縁があるものだね。


神は存在するかもしれない。

今も僕の人生を見ているかもしれない。

どんなに拙くても、醜くても、神は僕を見てくださっている。

心の底から感謝するよ。


だけれど、僕は神を崇めない。

感謝はするが、崇めない。


僕は神を想像したい。

想像上のものでいて欲しい。

どこまでも夢想的で妄想的で理想的な神様で居て欲しい。


だけれど、存在してしまったら。

それはどこまでも現実的で真実的で事実的な神様だ。


僕は神を架空の存在に留めておきたい。

現実に居て欲しくない。


そして、僕は架空の存在を決して崇めない。

居ない存在を崇めるなんて、自慰的じゃないか。

無意味に時間を潰したくない。


だから、僕は神を崇めない。

感謝はするが、崇めない。


そんな思考を扉が開くまでの間にしてみる。


「やっぱり、神は半現実的存在であった欲しいな」


そう。

『虚構』のような存在であって欲しい。


α)


トイレの中。

僕は髪を整える。


僕の現在の姿は黒い和服を着ており、赤い帯を巻いている。

髪は腰ほどまで伸びており、長いと言われる部類である。

体は小さく158cmほど。


そのため僕を初見で見る人は女の子扱いしてくる。

列記とした日本男児であるのに。


まぁ、確かに服も女物を着ているから、初見で男と判断するのは無理だろう。

ちなみに男である僕が何故女物の服を着ているかというと、そちらの方が美しいからだ。

美しいから女装をする。

普通のことである。


友達からは飽きられるが、僕は絶対にそうは思わない。

美しさを追求するのに性別は関係ない。


髪を梳かしながら、僕はそう思うのでした。


β)


この町は田舎町だ。

住宅街が8割を占めていると言っても過言ではない。

この町の人はこの町にいる時間より、この町にいない時間の方が多いだろう。

だって何もない閑静な住宅街が広がっているだけであるから。


そんな町に僕がやってきた。

別に日本一周をしているというわけではない。


目的があってここに来たのだ。


その目的を果たすまで、僕は友達の家に居候する。

居候かぁ。

某子供の名探偵くらいでしか聞かない単語だ。


僕の世界が狭いだけかもしれないが。


取り敢えず今日は友達の家に行って、荷物を置いて、この町の調査をする。

この町を歩き回って3時間くらい時間が消える。

その後無料でご飯を食べさせてもらい、無料で水道代などを消費する。

そして架空世界に閉じこもりながら、寝落ちする。


嘘のように良い計画だ。


『ピーポーピーポー』


どこからか救急車の音がする。

物騒なことでも起きたのか。


現在この町は一部の界隈の人間たちが大量に集まっている。

そのせいということもあるかもしれない。

多少時間がずれてもいいだろうから、現場を見てみるとしよう。


γ)


人の騒ぎを聞いてやってきたのは路地裏。

そこには倒れている男性とその男性のものと思われる血液がある。

血液は結構飛び散っているが、男性は生きていそうだ。


死に近い状態から無理矢理生き返らされたみたいな歪さがある。

なんて不思議なのだろうか。

なんてミステリーなのだろうか。


だけど、ここは現実だ。

しょうもない理由で男は傷つけられたのだろう。


「真実はいつもくだらないね」


救急隊員がようやくここに辿り着く。

人だかりを掻き分けて、一刻も早く被害者のところへ向かう。


僕はその様子を何度確認する。

何度確認しようとも、人が人を救っているようにしか見えない。


神とはどのような存在であるのだろうか?


髢題ゥア莨鷹。)


もし神様がこの現場を目撃しているなら、混乱しているかもしれない。


ここで神様にクイズを出そう。

何故僕は救急車よりも早くここに辿り着けたのだろうか?

目的地が分かっておらず、移動速度は負けている。

本当に何故だろうか?


全知全能の神でも僕の動向全てを観察できるわけではないだろう。

だって神にも欺けるよう意図的に隠したのだから。


何故全知全能の神を欺けるかだって?

愚問だ。

答えは神様が実在しているからだ。


δ)


「本当にここかぁ?」


なんか友達の家が駄菓子屋だった。

結構意外だ。

『自分の好きな事だけをする』ということをモットーにしているのに。


「なんか懐かしい商品ばかりだなぁ」


しばらく商品を眺めていると、誰かが奥からやってくる。

奥からやってきたのは少年であった。

高校生くらいの少年。


Yシャツを着用しており、礼儀正しそうなオーラが凄い。

僕もそんなオーラを出してみたいものだ。

幼い頃はよく先生から怒られていたからね。


彼は僕の姿を見て、畏まった雰囲気を出す。

別に気にしなくて良いのに。


「えぇと、初めまして。

田中たなか善人よしとと申します。

もしかして、文樫あやかしさんの友達ですか?」


「あぁ、その通り。

文樫・誘夜いざやの友達の文月ふみつき一筆いっぴつ

ここに泊まりに来たんだよ」


「え!!文月先生ですか!!!」


そっちに飛びついて来たか。

僕は誘夜に友達がいたことに驚くと思っていたが。


「あぁ、そうだよ。小説家の文月・一筆だよ」


「僕【ヘモグロビン】が本当に好きで、よかったら握手してくれませんか?」


「全然良いよ。減るもんじゃないし」


「ありがとうございます」


腕を差し出し、握手する。


「まさか女性の方だったなんて。

てっきり男を想像していましたよ。

アッチの方の描写が結構えげつないですし」


「何を言っているんだい?僕は列記とした日本男児だよ」


「えぇぇぇええええぇぇええぇぇええ!!!!!」


そんなに驚くような内容か?

最近だと結構ありふれているけれどね。

女装も男装もTSも。

現代はなんでも許容することをモットーにしているからね。


そんなことを思っていると、僕も彼に質問したくなって来る。

誘夜を慕う人間がいるという時点で、僕はとっても驚いている。


誘夜は彼をどのように扱っているのだろうか?

僕の知っている彼だと、絶対に実験動物として飼っていそうだが。


そういう雰囲気ではない。

ちゃんと生を謳歌していそうだ。


「君は誘夜とどういう関係なんだい?」


「文樫さんの雑用係という感じですね。

昨日文樫さんから「この家友達人来るから世話よろ~~!!僕は明日からいないから」

みたいな感じのことを言われていたんですけれど、本当に友達が来るなんて驚きです」


なるほど。

実験動物じゃなかったか。

本当に変わったんだなぁ。


人は変わるのか。


「立ち話も何だし、奥に上がらせてもらうね」


「はい分かりました。お茶の準備をしときます」


靴を脱いで商品展示エリアから生活居住エリアに向かう。

レトロな雰囲気が漂っていて、とっても落ち着く。


居間でとても太いテレビを見て、時間を潰していると、田中君がやって来る。


「どうぞ。お茶です。

ゆっくりしていってくださいね。

僕は今から仕事があるので、御先に失礼します」


「お茶を出してもらって悪いけど、僕は君についていきたいなぁ。

君が普段どのような活動をしているのか気になるからね」


「文樫さんの友達って言えば通じるとは思いますけれど、

そんな特別なことなんてやっていませんよ」


「いや見たい。

特別じゃなかったとしても良いよ。

僕は見たい時に見たいからね」


「......分かりました」


ε)


僕らは安全か、危険か、そんなことも分からぬまま、日常の一環として町を歩いている。

僕にとっては日常じゃないが、彼にとっては日常だろう。


「そういえば今日の朝のことなんだけど。

路地裏で人が倒れていたんだよね。

血は大量に流れているのに、生きていたんだ。

見た感じ傷も無さそうだし。

滅茶苦茶怖いよね」


「そのことなんですけれど。

薄々気が付いていると思いますが、こちら側の事件らしいですよ」


「だよねぇ。

じゃなければ、あんな歪なことになってないよね」


「文月先生が見たような事件が最近結構起きているんですよ。

結構探っているんですけれど、そういう『虚構』はなかなか見当たらないんですよね。

傷つけた後に回復させる『虚構』。

だから人為的なモノだと捜査が進められていますね。

便宜上この犯人の名前を『玩弄救恤ゲーム・セイヴ』と名付けたそうです」


「セーブとセイヴをかけているのか。

洒落た名前だね。

相変わらず名付け屋は中二病だね」


「ですよねぇ。

犯人には蔑称くらい変な名前でもいいのに......。

......あっ、アリシアさんだ!!」


彼は知り合いでも見つけたようだ。

彼の見ているところを見れば、そこには修道服を着た女の人がいた。

この三人の関係で見れば、紅一点の女の子だ。


近くで見ると、眼をずっと閉じている。

正確には糸目のようだが。

......そのうち裏切りそうだなぁ。


髪は赤色で派手だ。

絶対に怒られそうだが、たぶん地毛で通しているのだろう。

知らんけど。


「あら、田中さんじゃないですか。

こんにちは。

そちらの方は見たこと無いですね。

良ければ伺っても?」


「どうも。僕は文月・一筆です。

文樫君の友達ですよ」


「文樫さんですか。

まぁ、あの方に友達がいたのですねぇ。

驚きました」


やっぱりそこで驚くよね。


「今日も生を謳歌しているようでなりよりです。

路地裏でまた被害があったそうですねぇ。

最近この町は物騒ですから、祈祷を捧げましょうか?」


「いいんですか!?

今日任務があるので、不安なんですよね」


「じゃあ、祈りますよ」


【我らは神に祈りを。

神は我らに加護を。

双方の損得により結ばれた我らは、損得により簡単に互いを裏切るだろう。

だが、損得が一致している間は絶対に裏切らない。

我は貴方に不朽の祈りを、至高の祈りを、絶対の祈りを捧げましょう。

その対価として不朽の加護を、至高の加護を、絶対の加護を彼の者に与えなさい。

我と神はこの時刻、この場所、この契約を持って、共に救い合おう。

『『等価交換エクスチェンジ祈祷来光ルーアッハ』』】


僕らの体が光に包まれ、全体的に強化される。

全能感が半端ない。


シスターにしては物騒な詠唱だったが、効果があるなら何でもいいだろう。


「ありがとうございます」


「では、今日も今日とて非日常を頑張って生き延びてくださいね。

私は悪魔の調査に向かいますので」


---

あとがき

会話メインで思ったよりも、話があまり進まなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

胡栄町の魑魅魍魎事件簿 饕餮 @naruhodotumari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ