第3話 廃れた公園
君が夢に出てくることがなくなった。
いつの間にか俺の生活から抜け落ちてしまってたんだ。それをどうにか拾い上げようとした。
それでも、俺は何も掴むことが出来なかった。いや、掴もうとする気が生まれなかったんだ。
そんな不可抗力で終わりを悟った。
人生なんて俺にはどうでもいいことで、その重要な部分である
俺にとって恋愛は最後の砦だった。やりたいことも何もない俺に残された最後の希望……
初めは心地が良かったんだ。
高校2年生の時に美春と出会って、雷に撃たれたような感覚が走った。
そこで初めて俺は”死”以外で生を実感できたんだ。
美春が俺の全てだった。
美春になら他の人に抱かない感情を持つことができた。あの時の衝撃は今も忘れられない。
でも、やはりこうなってしまった。
美春で彩られていた世界は再びモノクロの世界へと変貌してしまったのだ。
代替となる物をいくらでも探した。
趣味を増やした。友人と出かけた。金を使った。他の女を抱いた。
そのどれもが違ったんだ。
暗い、暗い、真っ暗な海へと沈んでいく。そこに差し込む光は徐々に消えていき、俺はそれが怖くて目を瞑ったんだ。
浮ついた足取りで改札を出る。俺の家の最寄りの駅は利用者が元々少ない。こんな時間に降りるのなんて俺しかいないんだろうな。
帰り道の街灯は薄暗く光っている。少ないながらも虫がそこに集っているのが見えた。
その虫の姿に既視感を感じつつ、家への道を歩いていく。
そういえば、ここの近くの公園はもうすぐ無くなるらしい。理由はよく分からないが、見慣れた景色から何かが無くなるのはどこか寂しい気持ちになる。
「……少し見に行くか」
愛着がある訳じゃない。そこに思い出もない。ただ、終わりに近づく様子を間近で見たいと思った。
あの公園は大して大きくは無い。せいぜい、親子連れが5組ほど入れば多いと感じるほどの広さだ。
しかも園内の明かりが少なく、防犯上安全とは言い難いようなつくりになっている。
「中に入るのは初めてだな」
遊具はブランコに滑り台、砂場など定番の物がいくつかあり、そのどれもが歴史を感じさせるほどに錆びれている。活気もない、静かを具体化した空間が広がっている。
この静寂に浸りたいと思った俺はブランコに腰掛け、膝に肘をかけ目を覆った。
こんな時、涙を流せたらな、なんて思う。今の俺はただ、「悲しい時には普通の人ならこうする」を演じているにすぎない。
自己愛? 自己陶酔?
そんな事じゃない。俺は誰よりも俺自身を愛していない。死へ身を投じる覚悟だけがない、ただの屍だ。
「……はぁ」
あらゆる記憶が甦ってきて、俺は自然とため息をついていた。
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