05.
なんかすげえタイミングで
「ちょ、ちょっと待って!? どうして急につくしちゃん!?」
混乱している
「普通に、容疑を否認してないから」
「そういう!? あれはパニックになってただけじゃ……」
「
「ふぐ……」
言葉でズケズケ刺される
「志乃田さんだって馬鹿じゃない。あらぬ疑いをかけられたときに、『違います』って言うくらいの自己防衛力は持ち合わせてる。赤ちゃんじゃないんだから……こいつの記憶があやふやなのをいいことに、自首しなかった点は、褒められたことじゃないけれど」
「な、なるほど……でも、つくしちゃんがどうやって高橋のことを……」
「さあ? というか、実際にやったのは、志乃田さんじゃないんじゃない?」
城銀が志乃田の方を見る。その視線に促されたように、志乃田は「あうあう」と少し間をおいてから、ゆっくり説明を始めた。
「その……きょ、今日は、朝から“マッチくん”が……火の精霊の子が見あたらなくて。でね、マッチくん学校が好きだから、もしかしたら学校にいるかなって、探しに来たの。それで、教室を覗き込んでたら、後ろから高橋くんに、挨拶、されて……」
「ああ、びっくりしちゃったのか」
「そしたら、わ、“ワタゲちゃん”が、高橋くんに眠り胞子をかけちゃったみたいで」
「ワタゲチャン? なんだそれ」
「ああ、知らないんだ」如月が
彼女は最初の自己紹介の時、「“トモダチ”がお邪魔してます」と言っていた。
どうやら志乃田の周りには、数え切れないほどの精霊がいるらしく、彼女はそれが常に見える状態で生活を送っている。ちなみに白川と逆神ワタルは、“精霊”を見ようと思えば見れるらしい。それもあって、ここの三人はそこそこ仲良しらしい。
で、精霊たちからすると彼女は〈女王〉なのだそうで、彼女の身に危険が迫ったり、彼女が怯えたりすると、自分たちの〈女王〉を守ろうと防衛反応を示す。
それがさっきの狼であり、俺を眠らせた“ワタゲちゃん”とやらであり。
また、それらの精霊が、志乃田の言うことを聞くとも限らず。
「ふぅん。そんじゃ、高橋をロッカーに閉じ込めたのも、そのワタゲチャン?」
夜崎が聞くと「ひぇ」と志乃田は驚いた後、持ち直して首を横に振る。
「そ、それは“ワタゲちゃん”じゃないの。高橋くんを保健室に運ばなきゃって、“キョジンさん”にお願いしたら、その、縛り始めちゃって……そのまま掃除用具入れに……」
で、ホームルーム終わりまで縛られる、と。
なんか酷い目に遭わされたわりに、悪意のカケラも無い事件だった。「なんだよ」と
「結局モブのせいじゃねーか」
「そうだな、俺が……俺か!?」
「あんたが急に挨拶したのが悪いわ、モブ」
「そこから!? あ、あー、でもまぁ……」
城銀からも指摘を受けて、言い訳しようとした口をつぐむ。時間が経って記憶が冴えてきたかもしれない。たしかに志乃田を見かけた気がする。俺より早く登校しているのは珍しかったので、「今日は早いんだな」などと声を掛けたような……記憶はあやふやでも、俺だったらそういうことをするだろう。
志乃田の男子嫌いは周知なので、俺も軽率だった、かもしれない。
「ま、あれだね。出てきたのがさっきの狼とかじゃなくてよかったね、高橋」
「だなぁ。朝は俺らもいなかったわけだし」
如月と夜崎も頷いている。……否定できない。
ここは〈主人公〉のための学校だ。自分で起こした騒動は、自分でケリをつける。それは責任であり、義務であり、“他力本願”が許されない彼らにとって、当然のことでもある。さっき周防が言ったことは正論で、俺はぐうの音も出ない。志乃田だって、自分の精霊が暴れないよう注意深く生活しているし、今朝、精霊を探しに来たのもその一環だ。
みんなそれぞれの方法で、この学校の流儀に従い、生き残っている。
「……えと……志乃田、悪かった」
「へっ!? あぅっ、いや、いやいやっ!」
志乃田はぶんぶんと、小さな手と首を振る。
「たかっ、高橋くんはぜんぜん悪くないから……! わっ、わたし、こそっ、すぐに出してあげられなくて、ごめんなさい! 高橋くんが閉じこめられちゃってから、その、
「お、俺か!?」
……うん、こいつだったら怖いだろう。
「はぅ……た、高橋くん、服大丈夫? クリーニング代出す?」
「えっ。あ、ああ、大丈夫だよ。適当に払えばどうにかなるだろ」
俺はバシバシと、制服についた白い埃を払って見せる、が。……うん、意外と落ちないぞ、これ。いや、まぁ、だからってクリーニング代を要求したりはしないけど。
横で城銀がフゥと溜息をついた。
「ま、一人一人ちゃんと聞けばわかったんだし、私は必要なかったってことね」
「あ、あ~、ユキちゃんごめんって!」
「サメシマ~、自習だろぉ? 購買行っていいかぁ?」
「オナカスイタ~」
「ダメダメー。後から俺が
それぞれガヤガヤと喋りながら、自分の席に戻っていく。
俺もようやく、今日初めて自分の席に着いた。
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