第五話 犯人はお前だ! って、被害者は俺かよ!?
01.
帷さんへ
元気にしてますか。真呼です。
初めて手紙を書きますが、別に帷さんへの返事というわけじゃありません。
この前は殴ってしまって、すみませんでした。
まだそのこと、謝ってなかった。昨日思い出したんです。言い訳がましいけれど、帷さんならきっと、避けるか、防ぐか、できると思ったから。実際できたんだと思う。だけど帷さんはそれをしなくて、僕が殴るのをちゃんと受けてくれた。帷さんがそういう人だということを、僕は、わかってなくて、思い切り殴ってしまった。本当にごめんなさい。
お詫びになるかわかんないけど、この前スーパーでかっこいいシールを見つけたので、同封します。〈シャドウヒーローズ〉の柄です。帷さん、好きだって言ってましたよね。子供っぽかったら、すみません。ペンケースみたいなのもあったけど、お金足りなくて。
最近夜が寒いです。風邪ひかないように、ちゃんと布団かぶって寝てください。帷さんは、寝ぼけて布団を脱ぐ癖が酷いから。
体 大事にしてください。
マコへ
ポストを開けてビックリギョーテンしました!
全然大丈夫です。気にしないでください! 兄ちゃん頑丈だし、すっかり治ってますから。でも、マコのそういう優しいところが兄ちゃんは嬉しいです。
シールありがとう! めちゃめちゃかっこいい! 大事に使います。最初に、数学のノートに貼りました。兄ちゃん数学苦手なんだけど、だいぶやる気が出そうです!! かかってこい数学魔神め! ハッハハー!! 夜は抱き枕をマコだと思って抱きしめてるから大丈夫! マコこそ風邪引かないように、気をつけて!
というかマコから手紙が来てびっくりした。うれしい。マコ、手紙だと「僕」っていうんだな! かわいいな! とりあえずもらった手紙は、額縁に入れて飾っておきます。ああいや、額縁に入れるなら、あれだな。もっと楽しい話題がいい。今日はこんなことがあったよーとか、最近こんなものにハマってるよーとか、その最後に「お兄ちゃん大好き(ハート)」って書いてくれたらもう最高です。
次はそういう手紙を期待しています。それじゃ!
帷さんへ
マジでやめてください。
「……ん…………」
暗闇の中で意識が覚醒した。……覚醒した?
どうなってる? もやもやと意識も記憶も曖昧な中で、埃っぽいニオイが鼻腔をつく。体育館倉庫のニオイに似ているが、あれよりも臭い。気温は暑くも寒くもないが、どうも空気が淀んでいる。目を開いても何も見えず、体を動かそうとすると、これがまったく動かない。
両手両足を縛られているらしい。
それに気付いた瞬間、危機管理能力がようやく理性を叩き起こして、どうも両手両足を縛られた状態で体育座りをさせられ、目には布、口はガムテープらしきもので塞がれたうえで、狭い場所に閉じこめられているらしいぞと気付いた。
外からは、浅い喧噪と足音が聞こえる。
「んーっ、んーっ!」
喉を鳴らして存在を主張するが、より大きな声を出そうとして一気に鼻から息を吸うと、煙たい空気が一気に入り込んで喉を荒らした。生理的に咳をするが、口を塞がれているためそれも上手くできず、行き場を失った気圧は体の中で小さく爆発して、長時間同じ体勢をとらされて凝った体はビリリと響いた。
待て、落ち着け。
これはいつものアレだ。俺は自分に言い聞かせる。これはこの学校では当たり前のように起こる“災難”の一つだ。これらに迅速に対処するため、俺はこの“災難”を自分なりにカテゴライズし、それぞれのシチュエーションに対処法を定めていた。
まずは状況把握。それはもうできている。外の音を聞く限り、ここは学校の中だろう。椅子や机を引く音から、教室だと思っていいが、トラップの可能性もある。まあ……それはそれでいいけど……命に関わる攻撃を今すぐ加えてくるやつは、いないようだ。
ステップ2。
ぶっちゃけ大概のことは、これで解決してしまう。近くに如月がいれば、だが。
――助けてくれ!
心の奥底から強く念じる。その場しのぎに思うだけでは足りない。何者かの手によってこのままこの場所に閉じこめられ、永久に出ることもできず、飲まず食わずで死んでいく未来を想像して、マジの生命の危機を自分の中から絞り出すのだ。
シャレにならない恐怖との抱き合わせになるが、心の奥底から飛び出したこの純粋な恐怖の叫びは――必ず彼女の宝石に届く。
ガパッ、と何かが開く音がした。
目にあてられた布越しに感じるわずかな光と、淀んだ空気が入れ替わって、流れ込んでくる涼しい空気。それを感じてようやく、自分が相当劣悪な環境の中にいるのだと気付いた。そりゃそうだ。だって後で聞いた話によれば……
「
……こういうことだった、らしいから。
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