ショタコンJKのみるくちゃんは、大好きな幼馴染をショタ扱いして甘えまくる。

赤木良喜冬

第1話

 インターホンが鳴った。


 両親は出張中で、妹は部活なので俺が出るしかなさそうだ。


「はい」

翔太しょうたく〜ん!」

「…………」


 やっぱりみるく姉さんか。ずっと昔から、隣の号室に住んでいる女子。一体、いつまで来るつもりなんだか。


 玄関を開けると、そこには黒髪ロングの美人女子高生。制服の胸元は今にもはち切れそうだ。彼女は今日も嬉しそうに、ミルクが出そうな巨大な胸元を押し付けてきた。


 思わず後退りしてしまう。


 そしてみるく姉さんはそのまま家に上がり込んできた。


「照れちゃって、可愛い♡」

「やめろよ……」

「ああ、翔太しょうた君の匂いがする!」

「ここ来たら絶対言うよなそれ」

「当たり前でしょ!」


 どの辺が当たり前なのかはさっぱりわからないけど、みるく姉さんは通常運転でずかずか俺の部屋へと入って行った。


「おい、何度も言ってるけど、勝手に入るんじゃ……」


 続いて部屋に入った途端、口元に柔らかい感触が。真横で待機していたみるく姉さんの人差し指だ。


 彼女はこくりと首を傾げる。


「ダメ?」

「そりゃ、俺だって見られたくないもんもあるからな……」

「あら、もしかしてエッチなやつ? 可愛いっ! 一緒に見る?」


 みるく姉さんは俺のベッドの隣の棚を一瞥した後、なでなでしてきた。


「ちげーよ。エッチじゃなくてもほら、……他にも色々あるかもしれないだろ」


 彼女の手のひらから脱出しつつ呟く。プライベートを侵害されたくないあまり、語気が荒くなっていたかもしれない。


 みるく姉さんはぷくっと頬を膨らませた。


「もうっ! さっきから思っていたけど、ちゃんとみるくお姉さんには敬語を使いなさい!」

「使わねぇよ」



 ――だってお前、同級生じゃん。


 ***


「どうして? 私はお姉さんよ」


 陽乃蔭翔太ひのかげしょうた君は、今日も敬語を使ってくれない。昨日読んだ「僕の淫乱お姉さん」ではもっと上手くいってたのに……ちゃんとショタコンワールドが展開されていたのに!


 おねショタ愛好家として、この状況は許せない。


 ……もしかして私の演技が下手? 


 いやいや〜、そんなはずはない、何度も家で練習したんだから! 私はお姉さん、あなたはショタよ!


 私は正座で座り込んだ。


「ほら、こっちへおいで」


 ぽんぽんと膝を叩く。だが、向けられるのは軽蔑の眼差し。


「……行くと思った?」


 ちょっとムカッとした。

 このやろう……今日こそこれをやってやるんだから!

 立ち上がり、無理矢理彼の腰を掴んで座らせる。


「おい、お前!」

「お前じゃなくてみるくお姉さん、でしょ♡ どう、落ち着くんじゃない? お姉さんのお膝」

「……いや、落ち着かないよ」


 は、はぁ⁉︎ これで落ち着かないショタがいる? ……まぁ、確かに身長彼の方が全然高いし、私の身体に収まらないどころか私ただの椅子みたいになってるけども!


 ……ん? ちょっと翔太君の耳が赤くなってる?


 あ、そうか! 


「お、お姉さんに緊張してるのねっ」

「してねぇよ……」

「照れなくていいのよ。私と翔太君の仲じゃない」 

「俺達の仲、ね……なぁ」

「――待って!」


 翔太君が振り返ろうとしたので慌てて止める。


 ダメ、今振り向いちゃ。絶対。


「お願い、お願いだから前を向いてて……」


 そうじゃなきゃ、私のお胸が当たっちゃう! ……なんてね。


 私の顔が真っ赤だってバレちゃう。


 でも、もう少しこのままでいさせて。せっかく勇気を振り絞って、膝に座ってもらったんだから。ここまで来るのに一週間かかったんだから!


 翔太君の体温が伝わってくる。


 どうやら落ち着いているのは、私の方みたいだ。


 彼は緊張してるだけらしい。


 悔しいなぁ。


 でもそりゃそうだよ。


 彼はこんなことに付き合ってくれてるんだもん。


 おねショタごっこにかこつけないと、私はこの溢れて止まない「好き」を伝えられない。


 本当はたったの一言で、伝えられることのはずなのに。


 私にもっと勇気がなくてごめんね。


 茜色に染まる一室。


 マンションなので少しだけ空に近いから、夕日がよく差し込む。


 だけど、おねショタごっこのお陰で目の間には彼がいて、私は夕日を見ることができない。


 ちょうどよかった、きっと眩しくて目を逸らしていたから。


 ***


「おはよう、翔太」


 無駄に爽やかな声。


 朝、俺がHRの開始をボケーっと待っていると、右斜め前の席の友人、流星りゅうせいが声をかけてきた。


 いつも思うけど、なんでサッカー部イケメンのお前が俺の友達なんだ? 別に幼馴染というわけでもないのに。


 高一の時からなぜか仲良くなり、それは高二になった今も変わっていない。


 ……まぁいいや。


「おはよう、なんかいいことでもあった?」

「はは、バレたか。実は昨日、真由美まゆみに告られてな……」

「よかったじゃん、ちょうど流星、いまフリーだったよな」

「そうなんだよ、よく知ってるな」

「まぁ、流星達の会話は教室によく響くからな」


 使い古しのシャーペンをクルクル回しながら言うと、流星はその場にしゃがみこんで、こちらにスマホの画面を見せてきた。


「じゃーん!」

「おお、仲良くツーショットか。前の彼女の写真は?」

「全部ポイだね」

「だと思ったよ」

「翔太にはお見通しだね……あ、姉崎あねさきさんおはよう」

「おはよう早見はやみ君……」


 声の方を向けば、姉崎の姿。昨日はおねショタごっことは言え、今までにないくらいの密着があった手前、思わず目を逸らしてしまう。


「どうしたの、陽乃蔭ひのかげ君」


 振り向けば、姉崎はそ知らぬ顔で首を傾げていた。


「いや、別に……」

「そっか、昨日の現代文の宿題、できた?」


 問いつつ、姉崎が座ったのは俺の左隣。窓側の角、主人公席だ。

 流星が立ち上がった。


「あ、まゆたんに呼ばれたから行くわ」

「おう」


 さっさく愛称か。流石だね。

 会話を遮られ、ちょっと口を尖らせている姉崎。


「それで、宿題できた?」

「ああ、そうだった。俺なりに書いてみたんだけど……ちょっとノート出すね」

「うん、私2時間もかかっちゃったよっ」


 普通に幼馴染の距離感で微笑んでくる。


 ――あのさ、よくそんなに上手に使い分けられるね! 今、すごく普通だよ!


 昨日の家での様子とはまるで別人だ。

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