何かになりたい

22雑魚

何かになれるなら

何かになれるなら、もし人に強制されずに自分で選べるのなら自分は何になろうか。何になれるのだろうか。子供の頃からずっと考えてきた。少し大人になった今でも、この考えの束縛から抜け出すことができていない。自分に自身がないことをさとられないように、明るく振る舞ってきた。自分が本当は何も詰まっていないことをさとられないように、何かが出来るふりをした。〝勉強〟や〝発想力〟というもので無自覚に皆を騙していた。

そんなことに気がついたのは小学五年生の頃だった。もしかしたら人よりすこし、あるいはかなり気づくのが遅かったのかもしれない。


5年生の2学期、9月の中旬辺りからクラスメイトの一部の人に急に無視をされたり、嫌がらせをされるようになった。その中でも私に特に嫌がらせをしてきたのが神田愛生だった。ある時愛生が言った。

「うわー!外寒っ!ねぇ理津子の上着あったかそうじゃない?」

それに畑中茜が相槌を打つ。

「ホントだ!着ちゃおっかなー!」

茜に愛生が耳打ちをする。

とたんに茜がゲラゲラと笑い出す。

「あはは!やっぱやめよ!」

茜は汚いものをつまむように私の上着をつまむと、窓の方に投げ捨てた。あと少しで窓から落ちそうだった。

「……」

何がしたいのかわからなかった私は茜をじっと見つめる。

「…何見てんの?気持ち悪。」


このときの私は、これが嫌がらせだということにも、自分がなにか言えば嫌がらせが発展しなかったことにもまったく気づいていなかった。

…私はなんて未熟だったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何かになりたい 22雑魚 @22zako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る