第5話
彼女の自己紹介が本当のことであれば彼女は麻乃の血縁者に間違いないだろう。顔も声も麻乃とほとんど同じだ。
双子だというのも納得いくほどに。
…でもそれだったらなぜ俺が知らないんだ。彼女の家には何度かお邪魔したことがある。だが一度も彼女のことを目にした記憶はない。
間違いなく彼女の家にはいなかったはずだ。
「ふふふ、なぜ、といった表情ですね」
心を読まれたのか?俺は感情が表に出にくいって言われているのに。あったことはないはずだ。
俺が知らないだけで彼女は俺を知っていた?
名前を知られていたわけだし、その線が濃厚か。
まだ他にも疑問はある。
彼女が麻乃の妹で、普段から学校で普通に生活しているのならなぜ学校中から知られていない。
麻乃は学年屈指、いや学校全体でトップレベルに君臨する美少女として有名である。
もちろん学年を問わず知らない人はいないと言われている。
「実は私、お姉ちゃんと喧嘩中なんです」
「喧嘩?」
「はい、一年くらい前からですかね。お姉ちゃんとまったく口を利かなくなったのは」
「別に興味ないんだが」
なにかを語り始めようとしたところ悪いのだが、生憎俺は辰巳姉妹のいざこざには興味がない。
麻乃と付き合っていた時に相談されていれば親身になっていただろうが、俺はそこまでお人よしじゃない。
「むぅー、いけずですねぇ~」
「ほっとけっ」
「まあいいです。どうせ後々聞いてくれることになるでしょうし」
「どういうことだ?」
「今から説明しますからお隣失礼しますね」
よくみると彼女は片手に弁当袋をぶら下げていた。最初からここで食事をとる予定だったらしい。
まるで俺がここに最初から来ることが分かっていたかのようだ。
まったく何を考えているのか分からない。不思議な感覚だ。
「侑都さんは昨日、お姉ちゃんから散々に振られたらしいですね」
やっぱりもう学年中に広まっているのか。そりゃそうか、人気者の麻乃が彼氏と別れたのだ。
あっという間にその事実は広がり、それを知った麻乃のことを好きな男たちが告白を始めるわけか。
仕方ないことだな、俺がなにか口を出す理由はない。
「そうだな。間違いない」
「それも姉からは凄い罵詈雑言を浴びせられたと」
「それも知ってんのか」
「まあ、人気者なお姉ちゃんですからね。すぐに耳に入りましたよ」
「疑問があるんだが聞いてもいいか?」
俺はあの疑問点について尋ねることにした。まずこの心に引っかかった違和感を取っ払っておきたい。
「もちろんですよ。私は侑都さんの味方ですから」
何を言いたいのか分からないが、とりあえず聞くとしよう。味方って…。
「なんでお前は麻乃の双子の妹して有名じゃないんだ?お前の顔ならモテるだろ!」
「あら、侑都さんったらナチュラルに口説いてくるタイプなんですね。そういうところもあるんですね。新たな一面を知れて、私興奮しちゃいそうです」
ぼそぼそ、と何かを言っている麻乃の妹。
なんだ、こいつ。突然息を荒くして。熱でもあるのか?
「早く質問に答えてくれ」
「…そうですね…。でも単純ですよ?」
彼女は風呂敷を広げながらこう言った。満面の笑みである。
「ちょっと変装してたんです。丸眼鏡をかけて適当な髪型にしておけば案外ばれないんですよ。たまたま苗字が一緒だったって思われるだけです」
ほとんどの男は馬鹿ですからね、と。
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