大阪での乱闘騒ぎ
そういえば、この時代の大阪は、天下の台所といって商業が盛んな場所だったはず。
「江戸とはまた違って派手だな」
藤堂さんが周りをきょろきょろと見ながら言った。
とにかく明るい。
藤堂さんが言うには活気の質が江戸とは違うらしい。
町や人々の雰囲気も驚くほど江戸と違う、と藤堂さんや永倉さんらが言っていた。
「大阪…遠征した時に来たっけな」
未来のことを思い出して呟く。
剣道で遠征した時は大阪で強豪校と試合したっけ。
などと考えつつ、歩いていく。
「そっちは大丈夫だったか?」
しばらく町を周っていると、芹沢さんが歩いてきた。
今回、大阪で指揮をとっているのは芹沢さんなのだ。
斎藤さんや山南さんもいる。
今回の大阪の仕事は芹沢さん、近藤さん、沖田さん、など少数であった。
「大丈夫でした。
特に怪しい奴もいませんでしたし」
俺が報告すると芹沢さんは満足げに頷く。
「そうかそうか。
仕事ばかりでは疲れる、遊びに行くか」
芹沢さんはそう言って俺達を連れて歩き始めた。
遊びに行くってどこに…。
そう思っていると、芹沢さんは他の人達も連れて、飲みに行く、ということになった。
淀川から船で移動し、北新地に行くという。
船に乗り込みしばらくした頃、斎藤さんが
「気分が悪い」
と言ってきた。
どうやら、船酔いしてしまったらしい。
そういや未来に、船酔いしたらしい、っていう話があったな。
などと考えていくうちに、これから起きる事が大体わかった。
嫌だなぁ…今から…。
などと考えつつ、船から降りる。
斎藤さんに肩を貸しつつ歩いていくと、俺が想定していたことが起きてしまった。
橋を渡っていた時、前方から他の団体が歩いてきた。
大きな声で話しながら歩いてくる。
しかも、体がとても大きい。
縦にも横にも大きい。
それを見て、力士だということはすぐにわかった。
この橋は狭いので、どちらかが端に寄り、道を空けないとどちらも通れない。
「どけ‼︎
邪魔だ‼︎」
芹沢さんが力士達に向かって怒鳴る。
「なんだなんだぁ」
「俺達に意見しようっていうのか」
だが、力士達は体格的に芹沢さんに勝っているので、芹沢さんの怒鳴り声など気にしない。
それどころか、挑発までしてくる。
この時代の力士は荒れている者が多く、喧嘩などが多かったことを、それを見て思い出した。
「ふんっ」
だが、それを芹沢さんは気にすることなく、腰に差してあった鉄扇を取り出す。
そして、近くにいた力士1人を張り倒してしまった。
これから面倒くさいことになる…。
俺はそれを見た時、そのことを思い出した。
「なっ⁉︎」
「おい‼︎
なにをする‼︎」
力士達は驚いて少し後退りする。
「我々は会津藩御預新選組だ」
芹沢さんが低い声でそう言うと、力士達は悔しげにしながらも端に寄った。
その後、芹沢さん達は住吉楼にて芸妓の酌を受けながら酒を飲んでいた。
俺は飲みたくなかったのだが、なかなか断れずにいて、困っていた。
すると
「フユは酒が飲めないので。
茶を持ってきてもらえませんか?」
と沖田さんが店の人に声をかけてくれた。
「ありがとうございます…沖田さん」
俺が沖田さんに礼を言うと沖田さんは
「いえいえ。
あからさまにフユが困ってそうだったので」
と笑顔で言ってくれた。
だが、芹沢さんは酒を飲み続け、
「お前も酒を飲め‼︎」
と俺に言ってくるようになり、居心地悪く感じてきていた。
早く力士達が乗り込んでこないかな。
などと考えていると、急に表が騒がしくなってきた。
本当に先程の力士達が、来てしまったらしい。
つい先程まで、早く来てほしいと思っていたが、本当に来られるとそれはそれで困る。
沖田さんが窓から外を見て、
「よくここが分かりましたね」
と呑気に言った。
表からは怒号が聞こえてきた。
「鉄扇を持ったあの無礼な男を出せ‼︎」
「ぶっ殺してやる‼︎」
俺も沖田さんが見ている窓から下を覗くと、八角棒などの武器を持った力士達が三十人程いる。
「……どうしましょう」
俺がそう言うと
「そりゃ追い払うしかないでしょう」
と呑気な声が聞こえ、振り返ると、藤堂さんだ。
力士達はこの店を破壊しそうな勢いだった。
会話を聞いていた芹沢さんは立ち上がり、
「打ち払うぞ。
あの無礼な奴らに、新選組を怒らせるとどうなるか教えてやろう」
とニヤリと笑って言った。
多分この後刀を使うよな…。
そう悟り、本当に自分にできるのか、と不安になる。
そして酒が入り、普段の何倍も自制心のない芹沢さんを先頭にし、ぞろぞろと二階から降りる。
本当は行きたくなかったのだが、行くしかないと思い仕方なく俺も着いていく。
降りるとすぐに、芹沢さんが鉄扇でそばにいた力士を張り倒し、史実に残る乱闘騒ぎが始まった。
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