貧乏生活と隊士徴募

京のまちにも、春めいた風が吹き始めた。

だが、土方さんの表情は、いつもに増して明るくなかった。


「要は金だ」


隣の部屋から土方さんの声が聞こえ、ふすまに耳を当て、出雲さんと聞く。

会津藩の御預になったとはいえ、給料がもらえるわけではないのだ。

食費や軍用金が問題になってくる。

周りの人達は新選組を『壬生狼ミブロ』と笑っていた。


「また日野に頼むか?」


今度は近藤さんが土方さんに言ったのが聞こえた。

試衛館の頃から世話になっていたという、佐藤彦五郎に無心をいう、というのだろう。


「むりだ」


土方さんが言う。


「送ってもらえても、貰えるのはごくわずかだ。それに、新選組を大きくするならば、湯水のように湧いてくる金がいる」


「そ、そうだな」


近藤さんが土方さんの圧におされているのが分かった。

そして、芹沢さんを通して守護職に掛け合う、ということが決まったみたいだった。


数日経った頃、会津藩が費用をまかなってくれる、ということが決まった。


「これでやっと節約生活から解放される…」


永倉さんとそのことについて話す。

今まで袴も買えない程だったのだから、嬉しくてたまらない。


「芹沢らは島原にかよったりしてるらしいけどな」


永倉さんがため息を吐きながら言った。

確か芹沢さん達は押し借りをしていたんだっけな。


「それはそうですけど…。

俺に島原なんて、縁のないところだ」


未来で女友達さえほとんど出来なかったのだ。

それに加えて未来での先入観から、遊女など嫌だ、という気持ちがある。


「いつかフユも芹沢に連れられるんじゃねぇの?」


俺の発言を聞いた永倉さんがにやにやと笑いながら言った。


「っ……俺は行きませんよ」


むっとしながら言う。

そんな風に話していると土方さんがやってきた。


「隊士を集めにいく。

お前達、手伝え。

俺達武州派だけでやるぞ」


「集める、って言ったって…

どうやって集めるんだ」


永倉さんが尋ねた。

土方さんはニヤリと笑い、言った。


「そりゃ決まってんだろ。

京都と大阪の剣術道場を、まわる」


その次の日から、沖田さん、藤堂さんらで京都や大阪にある剣術道場を片っ端からまわった。

是非、と即座に入隊を希望する人もいた。

だが、大半の道場は


「せっかくなので、ひと手ご教授願いたい」


と実力をはかろうとした。

その時は沖田さんや藤堂さん、斎藤さんに加え、出雲さんや俺が、立ち合う。

その間、誰も負けていなかった。

この時代に来て俺と出雲さんは初めて竹刀をとったが、剣道の腕は落ちていないようだった。


集まった隊士は百人前後。

どの隊士も、一癖も二癖もある面構えだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る