芹沢鴨と、その騒ぎ

食事を済ませ、各々宿に戻った。

今日も何もないといいんだが…。

そう思っていた頃、騒ぎは起きてしまった。


「おい‼︎近藤はどこだ‼︎」


外から芹沢さんの声が響く。

俺と出雲さんはなんだなんだと顔を見合わせていた。

すると外から近藤さんの声も聞こえてきた。


「芹沢先生、どうされました?」


窓の外を見ると、芹沢さんと近藤さんが話している。

芹沢さんは顔を真っ赤にしていた。


「言われた宿に行ったら抑えてないなどと言いやがる」


その言葉に近藤さんは、此方から見てもわかるくらいに、青ざめていく。

そのやりとりを見ていた俺も、この後を想像して青ざめる。

この騒ぎって確かこの後…。


「…出雲さん…これ…」


「そうだ…芹沢さんは焚火を始める…。

やべぇなこれ…」


もし焚火の炎が小説などでは表現できない程大きかったら…。

そう考えていると一つの案が浮かんだ。


「…俺、ちょっと行ってきます‼︎」


「は⁉︎ちょ、行くってどこに⁉︎」


突然のことに驚いている出雲さんを置いて宿を飛び出す。

出てくると、芹沢さんは宿場町の十字路で焚火を始めていた。


「薪をもっともってこい」


芹沢さんは面白がるようにして一緒にいた人達にそう言う。

俺はそれを見て急いで周りの宿に声をかけに行く。


「井戸の水を出してください‼︎

燃え移らないように‼︎」


そう言っていると、沖田さんと土方さんが走って来た。


「フユ‼︎

真っ先にここに来るとはやるじゃねぇか」


どこか悔しそうな土方さんがそう言って、宿の人に指示していく。


「総司とフユは他の宿にも行ってくれ」


「「はい‼︎」」


沖田さんと走っていくと、出雲さんが息を切らしながら来た。


「沖田さん‼︎フユ‼︎

大変なことになってます‼︎」


そう言われて見ると、空まで届きそうな炎がごおごおと燃えている。

こんなに燃えてるのか…。

小説などで読んだことはあったが、まさかここまでとは思っていなかった。

驚きで立ち止まっていると


「今は水を撒かないと‼︎」


と沖田さんが俺を呼んだ。

そうだ、今は炎が燃え移らないようにしないといけないんだ。

そう思い、出雲さんと沖田さんと周りの宿に指示する。


「芹沢先生、宿が焼けてしまっては何も残りません。

どうか、火を消してください」


近藤さんが正座し、頭を下げているのが見える。

だが、芹沢さんとその周りの人達はそれを面白がっているようだった。

すると土方さんがやってきて


「もうすぐ取締役が来る。

来たらもう大丈夫なはずだ」


とため息をつきながら言った。

その後、佐々木忠三郎などの浪士組の取締役らが来て、騒ぎは終わった。

絶対に芹沢さんを怒らせてはいけない。

この一件があって俺は、そう強く思った。

それからは多少のトラブルがあったものの、順調に京都へと向かえていた。

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