この世界での記憶

冷たい風が吹きつける。

寒い。

そう思い、ぎゅっと目を瞑り、体を縮こめる。

なんで寒いんだ。

そんなふうに考えていた。

すると頭上で声がした。


「フユ、起きろ。まだ今日出発じゃねぇんだぞ」


聞き慣れない声。

誰だ。

それに違和感を感じて目を開ける。


「は…?」


目の前にいたのは、和服姿で腰に刀を差した男達だった。

時代劇で見るような姿だ。

辺りを見回してみると、同じような格好をした男達が大勢おり、周りは高い建物等一切なく、まるで歴史の教科書の写真のようだった。

はっとして俺の服装を見ると、俺も周りの男達と同じように、袴姿で刀袋持っていた。

なんだ、これ。

驚きで言葉が出ないでいると


「やっと起きたか。

駿シュンも起こしてやってくれ」


今度は他の男が俺にそう言った。

横を見ると俺と同じような格好をしており、総髪姿の出雲さんがいた。

本当、なんだこれ。

驚きながらも出雲さんの肩を掴み、揺らす。


「出雲さん⁉︎

起きてください‼︎」


「…フユか…は…?

その格好…

てか…俺ら、トラックに…」


そう出雲さんが言いかけた時、頭を金槌で打ったような激しい頭痛が起きた。

表情からして出雲さんも同じような感じなのだろう。

その次の瞬間、頭の中に断片的な映像のようなものが流れ込んできた。


試衛館に住み込みで剣術稽古をしている俺と出雲さんと…。


近藤コンドウさん、土方ヒジカタさん、沖田オキタさん…。


なんなんだ、これは。


「フユ、駿、大丈夫か?」


意識がはっきりした時、永倉ナガクラさんは俺と出雲さんを心配そうに覗き込んでいた。


「あ、大丈夫です、永倉さん」


目の前にいた男の名前を言って、驚いた。

なんで、名前がわかるのか。

永倉…まさか。

俺と出雲さんを囲んでいる男達を見回す。

近藤さん、土方さん、沖田さん、永倉さん、原田ハラダさん、井上イノウエさん、藤堂トウドウさん、山南ヤマナミさん…。

周りの男達を確認し、確信した。

この男達は新選組の面々、そして、俺と出雲さんは、幕末に来てしまった、ということを。

これを漫画とかで言う転生というのかはわからないが、とりあえず、俺と出雲さんは一度死んでしまい、幕末にきてしまったことはわかった。

出雲さんもなんとなく分かったようで、俺と目を合わせ、頷く。

でも、何かがおかしい。

ここは屯所ではない気がする。

周りには様々な和服姿の男達がいる。

こう言ってはなんだがみすぼらしい格好の人もいる。

多分、ここは新選組の屯所ではない。

じゃあ、どこだ。


「もしかしたら…」


この時代がもし、新選組になるちょっと前だったら。

それだったら、屯所じゃなさそうなこの場所も説明がつく。

まだ新選組ではなく、これだけ人が集まっているとなると…。

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