誠の刀-青春疾風伝-
氷崎悠良
第一章 幕末へ
混濁した意識の中で
「男子個人第三位、
おめでとう」
「……ありがとうございます」
唇を噛み締めながら、第三位、と印刷された表彰状を受け取り、一礼し、一歩下がる。
次に表彰されるもう1人の三位と二位をぼんやりと見ていく。
そして、一位の表彰が始まった。
「男子個人優勝、
おめでとう」
出雲さんは、満足げに表彰状とトロフィーを受け取り、一礼して一歩下がる。
表彰式が終わると、顧問が他の部員達を連れて此方に走ってきた。
「写真撮るから‼︎
出雲と狐井真ん中にして並んでくれ‼︎」
「先生、俺真ん中恥ずいからやめてください‼︎」
出雲さんはそう言いながらも嬉しそうにしていた。
「お前部長だろ?
部長で個人優勝したのに真ん中じゃないのはおかしいだろ‼︎」
顧問に笑われ、この場にいた全員が出雲さんを真ん中に寄せた。
写真撮影が終わり、荷物を置いている客席にへと向かう。
「お疲れ様です、
個人戦、優勝おめでとうございます‼︎」
俺は出雲さんのところへと走っていき、声をかけた。
「ありがとな、フユ。
でもオマエも3位だろ?」
「…ありがとうございます。
でもやっぱり出雲さんには勝てませんね。
ものすごく悔しいです」
少し悔しげに笑うと、出雲さんはニヤッと笑い、
「そりゃそうだろ。
俺の方が長く剣道やってるんだからよ」
と少し自慢気にした。
出雲さんはこの剣道部一の腕前だ。
俺は良くてその次と言ったところか。
そんなことを考えていると、顧問がやってきた。
「2人ともお疲れ。優勝と3位、お前達本当すごいな。帰りのことだが、他の部員は家が遠いから駅まで送るがお前達はどうする?」
顧問はそう俺達に尋ねてきた。
出雲さんは少し考えるようにした後、
「俺らは歩いて帰るんで大丈夫です」
と答えた。
「そうか、気をつけて帰るんだぞ」
「「わかりました。
ありがとうございました」」
そう挨拶して顧問と別れる。
その後、部のジャージに着替える。
荷物をまとめ終わると、それを持って会場を出た。
キャスターのついた防具袋をガラガラと引き、竹刀袋を背負いながら2人で歩いていく。
「ほんと出雲さん強いですよね。俺も出雲さんみたいになりたいです‼︎」
「おぉっ?
じゃあもっと稽古しないとだな。
俺も相手してやるよ」
俺の発言に対し出雲さんは笑顔で頷いた。
「俺は新選組みたいになりてぇな」
出雲さんは楽しげにして言った。
実は俺も出雲さんも新選組好きなのだ。
仲良くなったきっかけも、それだった。
新選組関連の博物館などに2人で行ったり、天然理心流の構えを試してみたりしている。
「わかります‼︎新選組の人達は自分達のそれぞれの想いを胸に戦ってたんですからね」
出雲さんに、かっこいいと思います、と頷く。
横断歩道に差し掛かり、立ち止まって青信号になるのを待つ。
「だよな‼︎俺らもあんな風に2人で一緒に強くなろうぜ‼︎俺ら2人、うちの高校の剣道部の中で最強だから、大体のことは大丈夫な気がするしよ」
出雲さんは嬉しそうに笑って言った。
俺は、俺と出雲さんが剣道部の中で最強、と言ってくれたことがとても嬉しかった。
俺は、胸を張って出雲さんの隣に並べるようになるのが目標だ。
「ですね‼︎頑張りましょう‼︎」
出雲さんが俺の方を見てにっと笑い、俺も笑顔になって頷く。
青信号になり、笑って話しながら少しゆっくりと歩いていく。
「また今度、新選組展やるらしいから一緒に行こうな」
刀剣の展示もあるらしいぞ、と楽しげに話している出雲さんを見て俺も楽しくなり、口を開く。
「はい‼︎絶対-」
行きましょう、と言いかけた時、車のブレーキ音が聞こえてはっとして横を見る。俺達の横には大型トラック。
せめて出雲さんを、と思ったが体が動かない。
全てがゆっくりに見える。
気づいた時には、視界が霞んでいて、揺れていて、周りがよく見えなかった。
かろうじて見えた隣には頭から血を流した出雲さん。
ここで俺達は死ぬんだ、
直感的にそうわかった。
…どんな世界でもいい、出雲さんと2人で生きさせてくれ…。
そう願った時、視界が真っ暗になり、何も考えられなくなった。
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