誠の刀-青春疾風伝-
氷崎
第一章
混濁した意識の中で
『お疲れ様です、
個人戦優勝おめでとうございます‼︎』
面と小手と竹刀を手に持って客席に帰ってきた人に声をかける。
「ありがとな、フユ。
でもオマエも3位だろ?」
その人は持ってかえってきたものを置いて胴と垂を外しながら笑顔で返してきた。
今俺が出雲さん、と呼んだ人が先輩の
俺も出雲さんも高校の剣道部所属。
出雲さんは高2で、俺は高1、出雲さんは高3が春に引退してから部長を務めている。
『ありがとうございます。
でもやっぱり出雲さんには勝てませんね』
少し悔しげに笑ってそう言うと出雲さんはニヤッと笑い、
「そりゃそうだろ。
俺の方が長く剣道やってるんだからよ」
と少し自慢気にして言った。
そうやって話していると顧問が来て、他の部員達はこの会場から自宅が遠いのでバスで送るが2人はどうするか、と聞かれた。
「俺らは歩いて帰るんで大丈夫です」
出雲さんがそう答えて2人で顧問に挨拶をし、荷物をまとめ始める。
部のジャージに着替え、荷物をまとめ終わると、それを持って会場を出た。
キャスターのついた防具袋をガラガラと引きながら2人で歩いていく。
『でもほんと出雲さん強いですよね。
俺も出雲さんみたいになりたいです‼︎』
「おぉっ?
じゃあもっと稽古しないとだな。
俺は新選組の人達みてぇなりたいな」
俺も出雲さんも新選組好きで、仲良くなったきっかけも、俺が自己紹介で新選組が好きだ、と言ったことだった。
新選組関連の博物館に2人で行く、なんてこともしていた。
『ですね。
新選組の人達は自分達のそれぞれの想いを胸に闘ってたんですからね。
ものすごくかっこいいと思います』
横断歩道に差し掛かり、立ち止まって青信号になるのを待つ。
「だよな‼︎
俺らもあんな風に2人で一緒に強くなろうぜ‼︎
俺ら2人、うちの高校の剣道部の中で最強だから、大体のことは大丈夫な気がするしよ」
『ですね‼︎
頑張りましょう‼︎』
出雲さんが俺の方を見てにっと笑い、俺も笑顔になって頷く。
青信号になり、笑って話しながら少しゆっくりと歩いていく。
「また今度、新選組展やるらしいから一緒に行こうな」
刀剣の展示もあるらしい、と楽しげに話している出雲さんを見て俺も楽しくなり、口を開く。
『はい‼︎絶対-』
絶対行きましょう、と言いかけた時、車のブレーキ音が聞こえてはっとして横を見た。
目の前には大型トラックがいた。
せめて出雲さんを、と思ったが体が動かない。
全てがゆっくりに見える。
気づいた時には、視界が霞んでいて、揺れていて、周りがよく見えなかった。
かろうじて見えた隣には頭から血を流した出雲さん。
ここで俺達は死ぬんだ、直感的にそう分かった。
その時、俺は頭の中で、呟いた。
(神様、どんな世界でもいい、出雲さんと2人で生きさせてください)
呟き終わった瞬間、視界が真っ暗になり、何も考えられなくなった。
誠の刀-青春疾風伝- 氷崎 @hisaki_0821
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