第3話:Third Time is the Charm

いじめは去年から始まった。

気づいたのは、あの日の朝。いつものように私がミクちゃんに挨拶をしたとき、彼女は目をわざと逸らし、私の横を無言で通り過ぎていった。

「えっ。」

心がドキッとした。でも、その瞬間はまだ信じたくなかった。

体育の時間。ペアを組んでダンスをする授業だった。誰と組もうかと周りを見渡すと、すでにみんなペアを見つけていた。

昼休み、いつものように仲良しのグループに近づくと、メンバーたちはちらりと私を見ただけで、無言で立ち去った。

誰かが後ろで嘲笑う声が聞こえた。

それ以来、私は屋上で一人でお昼を食べるようになった。

屋上で目を瞑って、その時を回想していたら、「よう。」と、上から声が聞こえた。

目を開けると、青い空の下、少し眉を下げて私を見下ろしている杉本が立っていた。

「やあ。」私は軽く手を挙げて返事をする。「ねえ、杉本。私、最後の願い事決めたんだ。」

「なんだ?」

「わかってるでしょ。なんで私がここで食べてるか。」

杉本は一瞬黙り込み、そして諦めたようにうなずき、私の隣に座った。

「去年の秋、ミクちゃんが片思いしてた人が私に告白してきたんだ。それが原因。嫉妬って本当に怖いよね。それ以来、誰も口を利いてくれないんだ。それだけならまだしも、身に覚えのない私の噂も流されてさ。」

「うん。」

「バカみたいでしょ。ああ、本当に。」

私は壁にもたれ、憎らしいくらい晴れ渡った空を見上げた。

「もしかして、いじめをなくしてほしいってお願いするつもりか?」

「まあ、そうとも言えるけど、私が本当にしてほしいのは…。」

私は杉本の方を見た。彼は眉毛を下げ、真剣な表情をしている。

「『あいつらから私の存在を消してほしい』ってこと。あいつらの記憶から、私、浜辺清子を完全に消してほしい。それが私の最後の願い。」

「いいのか?」

「うん。」

「そうか。でも、それは無理だ。」

「えっ、なんで?」

私はびっくりして杉本を見た。

「許されてないんだ。あいつらが君の存在を忘れるだけじゃなくて、自分たちが犯した過ちも忘れることになる。それじゃ、君だけがずっと傷ついたまま残る。それはアンフェアだろう。俺の役目は、ご主人様である君、浜辺清子を幸せにすることなんだから。」

「ふーん、そうなんだ。」

杉本の答えに不思議と驚かなかった。どこかで安堵している自分がいることに気がついた。

「じゃあ、どうすればいいんだろう。」

「忘れるんじゃなくて、あいつらに向き合わせるんだよ。そして、それは残念ながら俺が介入していいことじゃない。ていうか、できないんだ。今まで見せてきたことはあくまでも夢みたいな幻想だった。でも、今回はお前に実際に関わりがあることで魔法じゃ解決していいことじゃないんだ。だからその代わりってわけじゃないけど。」

杉本は私の目をまっすぐ見た。

「浜辺。俺は手を貸すよ。お前が願わなくても。一緒に解決できるかわかんないけど頑張っていこう。もう1人で戦わなくてもいいんだよ。」

そう言って、杉本はポンと私の頭を軽くなでて、ハンカチを渡してくれた。

「ありがとう、杉本。でも、なんでここまでするの。」

「そりゃあ、俺はご主人様を守るためにここにいるんだからな。それに、お前覚えてないかもだけどさ。お前が俺を自由にしてくれたんだよ。」

「えっ。」

「入学式の時。みんなが俺のことを無視してて、誰も話しかけてくれなかった。俺の親の変な噂が流れてて、誰も関わろうとしなかったんだよ。そん時、あんたは俺を見捨てなかった。だから、これはあん時のお返しだよ。」

そして、杉本は初めて会った時のように、ニヤリと不敵そうに笑った。

「だから、感謝の涙は願いが叶ったあとでいいさ。」

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3つの願い事 みたらし団子 @janeausten

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