第3話 勘違い

「あれって、都市伝説なのよ・・・」

「ええっ・・?」


裕子に言われて悟はショックを受けた。

ずっと昔から本当の逸話だと思っていたからだ。


明治時代の日本では「愛している」などという言葉は一般庶民では使われないから「月が綺麗です」という訳がピッタリだなんて、漱石らしいと信じていたのに。


「でも、嬉しい・・・」

裕子は言葉よりも一生懸命、考えてくれたことが何よりも男が愛おしく思えるからだった。


(このままで、いい・・・)

裕子は心の底から思った。


死ぬまで悟の想い人でいよう。

どんな理不尽な状況でもいい。


悟に、この身を捧げることができるのなら。

一生、愛する人に。


悟は勤めている大会社の御曹司。

私は敏腕秘書とはいえ、離婚歴のあるバツイチ女。


想いが通じ合っているかもしれないけれど。

結ばれる未来は待ってはいない。


そう。

愛人であることが関の山なのだ。


このまま。

不確かな関係のままでも、男のそばにいられるのなら。


それでも。

いい、と・・・。


涙で滲む瞳がライトアップの光を散乱させている。

裕子はキスを促すように両目を閉じた。

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