第2話 その瞬間が

「裕子・・・」

女の俯く表情に熱い気持ちが湧きあがった。


そして、今夜のために用意していた言葉を呟いた。


「月が・・綺麗だなぁ・・・」

「えっ・・・?」


意外なセリフに裕子は顔を上げた。


「つ、月が・・ほら・・・」

「今日は曇りで、月なんか出ていないよ?」


噴水のライトアップが悟の顔を照らす。

薄っすらと滲む汗が額に光っている。


「月が綺麗・・なんだよ・・・」

「ぷっ・・・」


意地になって繰り返す表情に思わず噴き出した。


いつもクールな男が少年のように顔を赤らめている。

言葉の意味をようやく理解した裕子は優しく聞いた。


「もしかして・・アイ、ラブ、ユー・・・?」

覗き込む女の目が潤んでいる。


「イ、イエス・・・」

「ふふふ・・・」


裕子は男の胸に顔を埋め笑い出した。

細い肩が震えている。


愛おしく思った悟は両腕で抱きしめた。


裕子も男の腰をギュッとする。

伸びあがり、悟の頬にキスをした。


「嬉しい・・・」

ウットリと目を閉じ、男の胸に頬を摺り寄せる。


「月が綺麗です」は「I love you」の和訳。

漱石のマネをする悟が可笑しかった。


真面目で不器用な悟は冗談が下手だ。

今回も精一杯、気障なセリフを考えてきたのだろうけど、噴き出すほどに滑稽だと思った。


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