第42話 『前夜』




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と或る10歳の女性の独白



「ゴチソウサマデシタ」

「ゴチソウサマデシタ」


 今日の晩ご飯は、大好きだったケンチキそっくりのフライドチキンだった!

 おいしかった! ほんと、おいしかった。

 鳥は鳥でも、ニワトリと違ってほんとは大きな鳥だけど。

 そう言えば、鳥って恐竜の生き残りだって、健二おとうとが言っていたけど、本当なのかな?

 こっちの世界でも恐竜が居たのかな?



「ディアーク様、鳥ってキョウリュウの生き残りって聞いたんですけど、本当ですか?」


 わたしの質問に井上ディアークさんが少し驚いた顔をした。


 うん、驚いた顔もやっぱりイケメンさんだ…

 なんか、外国の映画に出て来る王子様みたいなんだけど、中身はお父さんと同じくらいの歳のオジサンって自分で言っていた。最初はビックリして信じられなかったけど、ある時に『どっこいしょ』って言っていたので本当みたい。


 でも、4人兄弟の全員が『じえーたいさん』と聞いた時は驚いた。

 みんないい人ばっかりで、ムーティおかあさんファティおとうさんやアル兄やディ兄みんなが殺されてしまったと聞かされて、泣き続けた時に本当に優しくしてくれた。


 それに、かおりちゃんは自分たちが守るからって言ってくれた。やっぱりじえーたいさんはセイギの味方だと思う。


 

「ハネローレ嬢、よく知っていましたね」

「ケンジがキョウリュウが大好きで、教えてくれたんです」


 井上ディアークさんに『ハネローレ嬢』と呼ばれるのはまだ慣れないな。

 なんか、こう、自分じゃないような気がする。


 でも、あんまりそんな時はないけど、2人だけの時とかはかおりちゃんと呼んでくれる。本当はずっとそう呼んで欲しいけど、『立場』というものが有るみたい。


 今も、小さい時からわたしのお世話をしてくれているウィルマさんと、一緒に育ったウィルマさんの娘さんのヴェリィしか部屋に居ないから日本語を使っているけど、前はそれもダメだった。小さい頃、日本語を使う度に周りにいた大人たちが変な顔をしたので使わなくなったから。


 だけど、ここなら使えるし、井上ディアークさんたちが全部分かってくれるからうれしい。


 だって、この世界には無い言葉がたくさん有るもの。

 でも、ここに来てからしばらくは使わない方が良いって言われてたけど、家族を殺されたわたしの事を考えて、『誓いの神・ヅーラ』にウィルマさん親子にちゃんと誓ってもらったから日本語を使っても良くなったの。



「ケンジ君はキョウリュウハカセだったんだね。うん、そうらしいよ。なんか大きなインセキが落ちて来て、大きなキョウリュウは全部死んじゃった、て聞いた事が有るね。小さいキョウリュウだけが生き残って、今の鳥になったんだよ」

「やっぱり。それならここゴビ大陸キョウリュウはいたのかな?」

「居たと思うよ。だってララ竜なんてキョウリュウそっくりだし」

「あ、ほんとだ」


 そうか、この世界にも恐竜は居たんだ。

 地球とのつながり有る様な気がしてなんだかうれしい。

 わたしのうれしいが伝わったのか、トトもうれしそうだ。


 本当に、ここに来て良かった…




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 まだまだ先の事とはいえ、許嫁の香織ちゃんと今夜は向かい合わせで2人きりの夕食を摂っている。

 部屋の壁には香織ちゃんの乳母と、専任侍女の娘さんの2人が控えている。



 どうでも良いと言えば良いんだが、実は香織ちゃんの本当の年齢がはっきりしない。

 精神年齢的には小学生の低学年の様な気がするが、初めて会った時の様に高校生くらいに思える時も有る。

 まあ、実害も無いし、時間を掛けて付き合っていけば問題は無いだろう。


 香織ちゃんと一緒に逃げて来た侍女やゴムル遣いたちは、殺されたサカイリョウ国の王に直接香織ちゃんの護衛を命令されて逃げて来たらしい。

 その際に、向かう先としてカシワールを目指す様に言われたらしい。


 もしかすればだが、王は香織ちゃんと俺たちを同類と見ていたのかもしれない。

 教会によって広められた『神々の言葉』がヒントになったのだろうと俺たちは睨んでいる。

 よい年をして転生した俺たちと違って、幼くして転生した香織ちゃんは小さい頃は良く分からずに日本語を結構人前で使ってしまったらしいから、その辺りから推測したんだろう。


 その推測によって、香織ちゃんという元日本人を保護出来たのだから、亡くなった王には感謝しか浮かばないがな。



 ナニワントとの開戦は待った無しの段階に来ている。

 片や凶作、片や豊作、と云うだけが開戦理由では無くなっている。


 このまま行けば、旧サカイリョウ国の全土で起こっている小さな反乱が大乱になりそうな程に荒れ始めているからだ。下手に弾圧をすれば、最大の制約が掛かる教会での誓いで縛っていない事も有って、降伏したゴムル遣いの誓いが解けるだろう。


 反乱を鎮圧する事でにゴムル遣いの誓いが解ける危険性を避けて、その一方代わりに外敵を作る事で反乱から目を逸らせようと云う目論見で遮二無二準備を進めているという報告が複数のルートから入っている。


 向こうはどう思っているか知らないが、俺たちは何も工作をしていない。

 そのせいも有って、ここまでの流れが不自然な気がしてならない。

 もちろん、ここまで荒れる原因は有る。

 最大の要因はやはり王族を根絶やしにした事だろう。

 あのまま生かしていれば、ここまで酷い事にならなかっただろうからな。

 

 ただ、どうしても推測をせざるを得ない。


 もしかすれば、王族は最後の瞬間に三穀豊穣の祈りでなく、自ら課した禁忌を犯して民の平穏を祈ったのかもしれない。

 もしかすれば、自ら『祈り』の恩恵の反作用を話したかもしれない。

 もしかすれば、全てが亡き王の筋書きかも知れない。

 

 推測ばかりだが、あながち間違っていない気がする。



 

 考えられる3つの侵攻路の内、どこを攻められるかは残念ながら絞れなかった。おかげで俺はマツバル家のクロデン室に設えられた仮眠用ベッドで、今夜から開戦するまで寝る羽目になっている。


 完成したばかりの無線機を届けに行って、そのまま最前線の3つの砦に残留している中隊のみんなには申し訳ないが、平穏な夕食を香織ちゃんと摂れた事を神々に感謝しておこう……



 そして、これは推測でなくて勘なんだが、今夜から明日の早朝にかけて開戦になるだろう。

 実りの秋が終わり、厳しい冬が来る…



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