第40話 『合同訓練』




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と或る31歳の男性の独白



「各自、ゴムル召喚!」


 俺の命令で部下たちもゴムルを召喚した。


 俺みたいに『カシバリの狂犬』との合戦を経験している世代は、最近の若い奴らと違って訓練と実戦の違いを知っている。


 だから、今回の様に全く違う系統の装備をしたゴムルと戦う意味を知っている。

 訓練の様に相手の動きが分かっていて、その対処が身体に染みついていればいる程、虚を突かれ易い。


 そういう意味では、今から行う訓練は、2人ほど居る合戦かっせんを知らない若い部下には糧になるだろう。



 普通ならな…


 

 ナラル盆地14郡が派遣したゴムル遣い達は俺の中隊を含めて精鋭中の精鋭だ。

 身に着けた装備とゴムル遣い本人の動きを見れば分かる。

 士気も高い。


 そりゃ、そうだ。

 あの『カシバリの狂犬』を一蹴したとされる『カシワールの金銀4騎』を実際に見れるだろうし、もしかすれば訓練の相手をしてくれるかもしれなかったんだ。

 腕に自信が有る奴はみんな志願しただろうさ。

 かくいう俺もその1人だ。


 だが、到着した翌日に早くも模擬戦が行われるとは考えてもいなかった。

 ましてや、真っ先に当たるなんて、想像もしていなかった。

 今頃、派遣されたゴムル遣い全員が固唾を飲んで、見守っている筈だ。

 少しでも情報を得ようとな。


 俺の中隊がゴムル召喚を済ませた事を確認してから、真正面の総司令殿の中隊がゴムルを召喚した。

 後ろの方で息を飲んだ気配がした。


 でけえ・・・

 4騎だけ、異常にでかい。

 残りの5騎が子供の様に見える。

 初めて見る様な変わった甲冑のせいか、異形と云う印象だ。


 その4騎から感じるのは、脅威そのものだ。

 勝てる気がしないな、おい。



『これより、模擬戦闘訓練を行う。各自、訓練用の模擬剣を受け取る様に』


 拡声の魔道具から指示が聞こえた。


 係のゴムルが訓練用の模擬剣を配って行く。

 俺も受け取ったが、実剣より少し軽い気がするが、さほど問題はない。


 実剣との違いは、刃の部分の中身が鉄製の棒を複雑な仕組みで構成したものという点だ。その外側を薄い銅板で覆っている。

 それにより、実際に打ち込まれても、斬れないし衝撃を吸収して大きなダメージを受けない様になっている。


 刃こぼれや故障が発生しても、5つに分割されているからその部分だけを入れ替えるだけで修理完了という優れモノだ。我が郡もこれを導入してくれれば、訓練がより実戦に近付く。売ってくれんかな?


 ちなみにこの模擬戦では、有効な攻撃かどうかは判定員が下す事になっている。

 聞いたところでは普段は各自の判断で判定するらしい。

 余程この模擬剣を使った模擬戦に慣れているのだろう。



『各自準備が終わったので、始め、の合図で訓練を開始する。それでは… 始め!』


 打ち合わせ通り、一斉に突進をする。

 普通なら探り合いの駆け引きをするべきなのだろうが、或る情報を仕入れたので逆目に張る事にしたのだ。


 その情報とは、総司令殿の中隊は士官学校の同期生だけで構成されているというものだった。

 全員が13歳らしいので、実戦経験はさほど無い筈だ。

 それに、見た感じ、3騎ずつの3班に分かれている。

 戦力を一点に集中する事で連携が乱れる可能性が有る。

 少しでも勝ち目を上げるには奇手に出るのも1つの手だ。

 狙いは先頭の普通のゴムル2騎と銀1騎の班だ。

 初撃で1騎か2騎を削りたいところだ。


 ん? 

   

 銀1騎が後ろに下がって、普通のゴムル2騎が前に出た。

 後ろに控えている残りの2班も動かない。もしかして機会を見て側面に回り込んで横撃を掛ける気か?


 だが、もう10ヤド(約7㍍)まで迫っているにも拘らず動く気配が無い。

 どういう意図かは分からないが、願ったり叶ったりの展開だ。


 俺が狙ったゴムルは、正面に剣を置く様な構えだったので俺の突進に合わせて突きに来るかと思っていたが、俺の間合に入る直前になっても動かない。


 よし、貰った!

 大きく踏み込んで、上体を思いっ切り前に倒しながら胴を払う。

 が、俺が振るった剣はむなしくくうを切った。


 クッ、緊張している分、身体が固くなって間合いを間違えたか?

 と思ったら、背中を痛打された。

 そのせいで、姿勢が崩れた。

 追撃が来る! と思ったが、来ない?

 なんとか踏ん張って倒れずに体勢を持ち直したが、視線を上げた真正面には誰も居なかった。

 他のみんなは?

 身体を捻って、後ろを振り返ったが、3騎相手に互角の戦いをしていた。

 いや、何故、互角なんだ?

 銀1騎には5騎が当たっている。だが、いなされている感が大きい。

 残り2騎に4騎が当たっているが、こちらも押し切れていない。


 おかしいだろ? 少なくとも俺の中隊には8人の実戦経験者が居るんだぞ?

 それなのに、成人前の13歳が操る3騎を押し切れないというのはどう考えても異常だ。

 くそ!

 みんなが見ている前で、こんな体たらくでは、故郷(くに)のゴムル遣い全員が軽く見られてしまう。

 なんとしてでも1騎だけでも倒さねば…



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 ルイルイことルイーサ・ナ・ジオ5級士とワルデン5級士の2人もすっかり強くなったものだな。

 まあ、2日に1回は他の中隊と模擬戦をしたり、それ以外でも俺たち金銀4騎と稽古をして来たのだ。

 強くもなるか…


 それに、今回の模擬戦では訓練用の模擬剣を使っているが、普段の稽古では金銀4騎は長剣の模擬剣を使っている。一種のハンデを背負っている様なものだ。

 そんな相手に稽古をしていれば、距離感も鍛えられるというものだ。

 そんなハンデも無しで、自分の剣が届く範囲で戦えるのだから、懐に入ったり出たりとやりたい放題だ。 


 4騎目を倒したところで、一気に片を付けるかの様に攻勢に出た。

 これはもうすぐ終わるな。


 しかし、派遣されて来た105もの中隊を相手に模擬戦をする企画はちょっと失敗だったな。

 1時間に10中隊を相手にすれば明日中には終わるが、さすがに負担が大きい。


 とはいえ、1度は手合わせをしておかないと、期待して来てるだろうからなあ…

 本気を出せば1中隊1分で終わらせる事は出来るだろうが、それでは自信を無くすだけだろう。

 やはり5分くらいは模擬戦をした方が良いだろう。


 5騎目。

 お、今のフェイントは上手かったな。

 6騎目。

 7騎目。 

 8騎目、9騎目、で、ラスト10騎目と。


 結局、模擬戦に使うのは1中隊で4分というところか。

 うん、やはり予定通りに今日明日は中隊対抗模擬戦をして、明後日は休みにしよう。


 連携を重視した集団戦の訓練は休み明けから始めよう。

 無線機もなんとか7基2セットが間に合って、通信を使った連携の習熟も可能になったしな。

 


 開戦までにどれだけの準備が終わっているかは、神様だけが知っている… のかな?


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