第38話 『神に一番近い少女』
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と或る52歳の男性の独白
神殿の外でも神々の御姿を見る事が出来ると云う特技を持つが故に、俺は他の神官よりも多くの神々の御姿を拝見させて貰って来た。
サカイリョウ国の大神殿に
教会の上層部以外には漏らせられないが、実は神々の御姿は様々だ。
基本的には人間に見える御姿をされているが、水や岩や樹木や草花にしか見えない御姿の神を視た事も有る。
もっとも、人間に見える御姿をしていると言っても、人間そのものでは無い。
強いて挙げればゴムルの姿に近い。髪の色や肌の色、瞳の色と言った色彩が無く、輪郭だけが有って、淡く黄金や白金に輝いている。
輪郭から判断する限り、中性的な整った御顔をしていて、二重三重にフワフワと宙に浮く布を御身体の周りに纏っておられる。
全体的な印象としては20歳代から30歳台が多くて、10歳台と40歳代が少々といったところか?
個人的な感想だが、敢えて人間に見える様に擬態されておられる気さえする。
だが、ハネローレ・ヌ・ミクニオ王女の周辺を漂う神の御姿には色彩が有った。
更に言うと、2歳にもならない人間の
この様な神は初めて拝見した。
初めてハネローレ王女とディアーク殿が顔を合わせた時は、その神をディアーク殿の周りを漂う神々が見守っておられる様に思えた。
だが、ハネローレ王女に付き従っていた者を休ませる手配を終えて戻って来た時には、変な言い方だが打ち解けた様に見えた。
『カシワール郡に於ける黄金の恩恵の奇跡』の際の話を聞いていたので、もしかすれば答が返って来るかもしれないという思いで訊いたが、さすがに正確な意味は分からないと言われた。
だが、4兄弟で1番神々の思し召しを感じ取れるらしいアンウォルフ殿ならば、もしかすれば何か掴めるかもしれないという事で、急遽お呼びする事になった。
その答は予想もしないものだった。
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「うーん、僕も自信が有る訳では無いのですが、どうも神様との関係に絡む恩恵の様な気がしますね」
『ミコ』と云うのは多分、『巫女』の事だろう。
ただ、『カミコ』と云うのは正直なところ不明だ。
もしかして『神子』か?
神の子なら、『祈り』と云う恩恵よりも更に強力な破格の恩恵になるのではないだろうか?
「どの様な効果なり意味なりが考えられますか?」
ウィリフリード・ダン・ハビキドル氏が
「間違っているかもしれませんが、神官の方よりも更に神様に近い存在、というところかもしれませんね。例えば、叶うかどうかは分かりませんが、神様に確実に願いが届くとかが有り得そうですね。もしくは神様の行動を左右する事が可能とか、神様の意思を受け取る事が出来るとか…」
室内に居た全員が息を飲んだ。
中でも、イーゴン・ダン・マツバル氏が1番の衝撃を受けている様だった。
神官領主と呼ばれる様に、一時期は実際に神官を務めていた。
しかも神の姿を視る事も出来る。
言い換えれば、現在1番神様に近い存在と言って良いだろう。
だが、視えるだけなのだろう。会話や交流は出来ないと思われる。
「まあ、あくまでも僕の印象なので、実際には全然違う恩恵かも知れませんよ」
「いえ、その話は有り得ると思いますぞ」
イーゴン氏がショックから立ち直ったのか、
「詳しくは言えませんが、ハネローレ王女には1柱の神が寄り添われておりますからな」
再び、室内に衝撃が走った。
まあ、俺たち兄弟もそうらしいので、それほど驚いたと云う感覚は無いが。
「と云う事は、ハネローレ王女の価値は計り知れない、と云う事になりますね。やはり保護するしか選択の余地が無い」
「ええ。そんな存在をナニワントに渡した場合の影響を考えれば、それしかないでしょう」
ハビキドル親子の会話が全員の総意を代弁した。
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目覚めたと云う知らせは、すぐに彼女の侍女からマツバル郡の領主館の者に伝えられ、会議中の俺たちにも伝えられた。
「ハネローレ王女、少しは疲れが取れたでしょうか?」
俺が客室に許可を得て入った時には、侍女たちが頭を下げて出迎えてくれた。ゴムル遣いの騎士も敵意が無い事を示す積りか、同じ様に頭を下げていた。
俺は目が合うと同時に、『内緒だよ』と伝える為に右手の人差し指を口の前に立てた。後ろのみんなに見え難い様に気を付けたが、もしかすれば気付かれたかもしれない。まあ、こちらには『シー』という仕草が無いので、気付かれても意味まで分からないだろう。
「私を始め、身体を休まさせて頂き、まことにありがとうございます。また、会談中に体調を崩して、ご心配をお掛けし、申し訳ございません」
うん、ちゃんと王女モードに戻っている。儀礼用の笑顔だ。
「いえ、ここまで御苦労をされたのですから、当然の事をしたまでです。体調は良くなりましたか?」
そう言ってウィンクをしてみた。
反応は、儀礼用の笑顔から本心が分かる笑顔への変化だった。
この段階で侍女と騎士が頭を上げた。
「はい、おかげさまで楽になりました」
「それは良かった。さて、今夜はごく小規模な歓迎の席を御用意させて頂きます。それまでは湯浴みなどをされて、どうかごゆっくりとお寛ぎ下さいませ」
「重ね重ねのご配慮、感謝いたします」
捕えていた旧サカイリョウ国の王族を全て処刑してしまったのだ。
もしかすれば、王族の持つ『祈り』と云う恩恵の話を歪な形で耳にしたのかもしれない。
更に、ナニワント国への賠償に回す筈だった資産の一部を勝手に持ち出したとして、容疑者のハネローレ・ヌ・ミクニオ王女の引き渡しを要求して来た。
だが、これで
腹芸の時間は終わりだ。
改めて行う歓迎式典は時間と場所が許す限り、大規模なものにした。
これまでの様に隠して時間を稼ぐよりも、むしろハネローレ・ヌ・ミクニオ王女を保護した事を大々的に宣伝する場にしたのだ。
これによって、表面上はナニワントに従いながらも、未だに反攻を考えている層へ情報が届く可能性が高くなる。劣勢を覆す規模には程遠いだろうが、大義名分を齎す事で反攻勢力を活気付ける事が出来る。
また、潜伏中のゴムル遣いが西カシワール軍事同盟に加わる為にやって来る可能性も出て来る。
まあ、要するに、ナニワント国に宣戦布告をするのではなく、喧嘩を買ったと云う事だ。
中円卓会議では誰も反対しなかった。
2度目の人生の家族とはいえ、不安で不安定だった
西カシワール軍事同盟が喧嘩を買うには十分な理由だった。
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