第37話 『じえーたいさん』
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と或る10歳の女性の独白
お
お
いつも
あとからもたくさん
『ああ、
テニス
まちのみちが
ゆうがたになってじえーたいさんがやってきた
こうていにとまっているくるまをおとなのみんながうごかした
はじめてちかくでへりこぷたーをみたけど、おおきいしうるさかった
じえーたいさんがばんごはんをくれた
じえーたいさんのみどりいろのふくはへんなもようをしていた
まちにながれるかわのみずはなくなったけど、ごみとどろでまちがめちゃくちゃだった
まちのみんなはぶじだったけど、でんきもみずもがすもとまっていた
じえーたいさんがごはんをつくってみんなにくれた
なんにちもなんにちもごはんをつくってくれた
おふろもじえーたいさんがわかしてくれた
おふろはだいすき みんなえがおになるから
じえーたいさんのおねえさんもおにいさんもおじさんもみんなやさしい
じえーたいさん、ほんとうにありがとう
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
「じぶんはりくじょうじえいたいだいよんていさつせんとうだいたいしょぞくいのうえとしやいっそうでありますげんじこくをもってじえいたいほうにもとづきにほんこくみんほごにんむにはいります」
え? 今!?
じえーたいって言った?!
金髪で目が青い外国のハンサムなお兄さんなのに?
えっと、えっと、それより日本語!? 日本語だ!
あ!? そう言えば台風の被害でお世話になった時にたくさん見たケイレイをした?
じえーたいさんにありがとうございますと言いながらケイレイのマネをしたら、いつも笑いながらしてくれたケイレイだ!
そうだ、ケイレイをしなくちゃ!
「じえーたいさん?」
でも、ケイレイより先に、私の口からなつかしい言葉が出た。
「ええそのとおりじえーたいさんですよ」
じえーたいさんだ! じえーたいさんがきてくれた!
ケイレイしなくちゃ
ケイレイしたらきっとニッコリとわらってケイレイをしてくれる
でも、気付いたら、お兄さんに抱き付いていた。
大きな声で泣く、可愛らしい女の子の声が響いていた。
「ほごがおそくなりもうしわけありません」
ううん、きてくれたから、あやまらなくてもいいの
ああ、もうだいじょうぶだ・・・・・・・・
だって、じえーたいさんがきてくれたんだもの・・・・・・・・
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ハネローレ王女こと、かおりちゃんは俺に抱き付いたまま眠ってしまった。
どうしよう?
こんな状況をみんなに見られたら、なんと思われるか想像もしたくない。
「ディアーク総司令、今、泣き声が…」
ドアが開けられて、ウィリフリード・ダン・ハビキドル氏が室内に入りつつ、声を掛けて来たが、絶句した。
まあ、当然、確認の為に入って来るよな…
こういう場合、挙動不審な態度を取ると状況は更に悪化する。
落ち着いて威厳を保って対応すれば誤魔化せる筈だ。
「きっと安心なされたのだろう。部屋を用意して、休んで頂きましょう」
俺の言葉に、ウィリフリード氏が何故か嬉しそうな表情を浮かべた。
「と云う事は、保護する事にお決めになったのですか?」
ハネローレ王女の中身がかおりちゃんという日本人と確定したのだ。
保護する事は決定事項だ。
「もちろん、保護します」
丁度、護衛と侍女の休憩の手配をしていたイーゴン・ダン・マツバル氏が戻って来た。
イーゴン氏は俺たちとは少しズレた周辺を視た後で嬉しそうな顔をした。
彼に視える神々たちに何か変化が有ったのか?
何となく気になる表情だった。
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
「『祈り』? それがミクニオ一族に授けられる恩恵なのですか?」
「はい、その通りです。この事はサカイリョウ国の王族と『
「確かに自分が知っている知識では、サカイリョウ国の王族が得る恩恵は『象徴』と云うものですね」
「俺も初めて聞いたぞ」
王家の内情に詳しいウィリフリード・ダン・ハビキドル氏の説明に親父が呟いた。
親父も知らないのか?
まあ、カシワール家はそこまで『
あ、表情を見るとラスバブ・ダン・フジイデル氏も知らなかったな。
今、マツバル郡領主館では緊急の『中円卓』会議が行われていた。かおりちゃんは緊張の糸が切れて寝ているし、お供たちも命懸けの長旅の疲れを癒している最中だ。
『中円卓』とは、フジイデル郡・ハビキドル郡・マツバル郡・タイシール郡・カシワール郡で構成される西カシワール軍事同盟の領主+同盟軍総司令+領主継承権第1位までが対象となる参加者で構成される会議を指す。
もっとも、参加資格は厳格なものでは無く、ちょい悪オヤジは毎回の様に参加するし、ちょい悪オヤジのカシバリ家に婿入りする予定の
ちなみに『大円卓』では東カシワール軍事同盟を加えた規模になる。
「ミクニオ家がサカイリョウ国の王家になった経緯は知っていますか?」
「世間で言われている、当時の王家が死に絶えたからと云う程度なら知っていますが、どうやら真相は違うのですね?」
「ええ。サカイリョウ国の王家は、ミクニオ家の本家筋に当たるサカイリョウ家でした。ですが、ある時代、圧政を始めた王が出たのです。苦しむ民を見て、当時のミクニオ家の当主がある祈りをしました。それはごく普通の『民がこれ以上苦しみません様に』という祈りでした。その結果、1年もしない内に流行病で継承権を持つサカイリョウ家の全員が病死したのです」
「世間では、神の怒りに触れた、と言われている下りですね」
「ですが、真相はミクニオ家当主が初めて賜った恩恵の『祈り』が原因の根絶やしです。その後、理由は不明ながら同じ恩恵を代々賜る様になったそうです。恩恵による弊害に気付いたミクニオ家では、祈りを人に向ける事を禁忌としたのです。人に向けると最後は『呪い』になる、と言って。それ以降は『三穀豊穣』の祈りだけをする事になったのです。そして出来るだけ人の汚い部分を見ない様にしたのです」
日本でなら五穀豊穣の祈りになるのだろう。
善人過ぎるミクニオ家の始まりが悲劇からとはな。
俺も『恩恵の神・サーラ』から平和な世を作る事を期待されているので、ある意味では反面教師と言えるのだろうか?
「その事を知っている少数の領主は王家に対する忠誠心が高いと言えますから、政治的な価値を考えても保護をする価値が有ります。まあ、私は王族の人たちの人柄と、純粋に祈るだけという俗世の汚れや欲から距離を置く姿勢に惹かれているのが大きいですが」
うん、いきなり世知辛くなった。
それとウィリフリードが彼らしくない意外な理由で王家信奉者と云う事も分かった。
「ただ、ハネローレ王女の恩恵に関しては謎です。確かにミクニオ家の恩恵の儀は今言った事も有って詳しい内容は秘されています。ですが、これまではある程度の情報は聞こえていました。それがつい最近行われたハネローレ王女の恩恵に関してだけは聞こえて来ませんでした」
「それは儂から説明しよう。分からんのじゃよ。恩恵の中身が」
「分からない?」
「そう、『祈り』では無い事は確かじゃが」
イーゴン氏が説明を引き継いだが、その説明を聞いて、俺たち兄弟以外のみんながこっちを見た。
うん、なんかそう云う話を聞いた事が有るな、ごく身近で。
「『ミコ』、もしくは『カミコ』と聞こえたらしい。ディアーク殿、どういう意味かお教え下され」
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