第33話 『弾劾』




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と或る44歳の男性の独白



「さてと、有り金全てを賭ける前に、飲み込んだ毒を吐き出しておかなければならんな」


 そう言って、ウィリイが俺を見た。

 その視線は俺がこれまで見た事の無いものだった。


「シュタイン、ナニワントが提示した条件は何だ? 領土の安堵か? それ以外にも何か約束されたのか?」


 そう訊いて来たウィリイの声も視線と同じく初めて聞くものだった。


「ウィリイ、何を言いたいのだ? さっぱり分からん」


 よし、声が震える事無く言い返せた。

 このまましらを切り通す。

 どうせ、証拠など掴んでおらん。



「他家の情報収集能力を自分の家と同じと思わん事だ。ハビキドルはフジイデル家の屋敷に3人の客人が滞在している事を掴んでおる。今も次男坊が相手をしているのだろ?」


 まさか? 本当にこっちの動きを掴んでおるのか?

 誰が情報を漏らした? コイツか! ウィリイの長男とつるんでいたしな。

 横目で息子を見ると、こっちを呆然とした目で見ていた。

  


「だから、舐めて貰ったら困るな。情報源が1つや2つの訳無いだろ? もう一度訊く。どんな条件を提示されたんだ?」


 なんとかこの場を切り抜けるんだ。そうすれば、ナニワントに逃げ込んで保護して貰えるかもしれんのだ。そうだ、コイツに擦り付けてしまえば良い。コイツは俺の言う事に逆らわんしな。


「ラスバブ、お前が連れて来た客人の事みたいだが、ナニワントの者だったのか? どうも最初から素性が怪しいと思っていたが、よくも我がフジイデル家の顔に泥を塗ってくれたな!」


 ここまで言えば、謝れという俺の意図が分かるだろう。

 

「父上、これまでです。大勢は決しました」


 はあ? 何故ここで俺に逆らう?

 これまで通り、俺の言う通りにしろ。


「同じ事を言うのも、これが最後だ。『誓いの神・ヅーラ』の笑顔も3度までと言うからな。ハビキドルはお前さん所の次男坊が最初に接触を受けた事も、お前さんに紹介した事も掴んでると言っているんだ。我が家の能力を舐めるなよ」


 くそ、ここまで強気に出る様なヤツでは無かった筈だ。ウィリイに何が起こった? 何が起こっている?

 しらを切るのも限界か?


「俺なら自分ところのゴムル遣いを最初から殺しに来た相手に、簡単に尻尾を振るなんて出来んな。むしろ次は一矢報いる為に全力を上げて努力するがな」


 くそ、狂犬め、部外者の癖に言いたい放題だ。

 ここまで来れば、なりふり構ってられんか?


「生き残る為に策を巡らせる、それのどこが悪い? だが、確かに俺の情勢分析が甘かった様だ。すぐに屋敷に帰ってナニワントの使者を追い出そう」


 この窮地を脱するには、何が何でもこの場から逃げる事だ。

 そして助力の確約を貰った上で使者殿を逃がして良いし、最悪一緒に逃げても良い。


「その言葉に嘘は無いな? 『誓いの神・ヅーラ』に誓えるか?」


 俺とウィリイの遣り取りに割って入って来たのは『神官領主』のイーゴンか?

 こういう交渉の場では余り言葉を発しないのに、何故今日は口を挟む?

 くそ、ドイツもコイツもいつもと違う。

 何がなんだか分からんが、とにかくここさえ凌げば…


「ああ、勿論だ」

「ならば、神誓の儀をここで行おう」


 は? ここでか? 神殿でも、領主館や砦に設けられた誓いの間でも無く、ただの会議室だぞ?

 確かに神官の資格を持っているイーゴンならば、そういう整えられた場なら神誓の儀を行えるだろう。


 だが、その様な特殊な場でなければ、儀式自体が成り立たぬ筈。


「誓いの神、ヅーラよ、我とこの者の誓いを見届けたまえ」


 イーゴンがそう唱えると、信じられんが確かに『誓いの神・ヅーラ』の気配がした。


 一体全体、何が起こっている?




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 この世界に来て、何に驚いたかと言うと、神様が身近な事だ。


 神殿に行くと、何かしらの神聖な存在の気配を感じる。

 まあ、今では四六時中気配に纏わり付かれているんだがな。


 俺の偏見かもしれんが、数多あまた居ると云う神様の存在は妙な安心感に繋がる。

 八百万やおよろずの神々が居ると云う日本で育ったせいで、どうも一神教と言うのは堅苦しく感じるからな。十字軍などが出て来る宗教絡みの戦争などの歴史を知っているせいも有るんだろうが…

 でも、そう言えば最近のバチカンは他の宗教を尊重する流れだというのをテレビで視た気がするな。地球の事なのでこことは関係ないが。



「誓いの神、ヅーラよ、この者の誓いを見届けたまえ」


 さすが神官領主だ。

 その言葉に応じて、俺の周りを飛んでる光の1つがシュタイン氏の方に向かった。


 ちょい悪オヤジが俺たちの親父に降伏を誓った時の様な、誓いの間で行われた神誓は『誓いの神・ヅーラ』が居なくともある程度は効力を発揮する。人間同士の普通の契約や誓約よりは、精神に対する強制力が有るだけだがな。


 だが、『誓いの神・ヅーラ』が立ち会った場合、強制力は格段に上がる。

 誓いを破った者の運命やせっかく授かった恩恵に影響が出るくらいにきつくなる。


「シュタイン・ダン・フジイデルの誓いを受け入れたまえ。さあ、フジイデル殿、誓いの神、ヅーラに誓いたまえ」


 シュタイン氏が表情を歪めたと思った途端に、いきなり会議室の出口に向かって駆け出した。

 可能性としては予測はしていたが、まさか本当に逃げ出すとは思わなかったぞ。

 もう、なりふり構っていられない心境だったのだろうな。


「捨て置きましょう」


 それなりに親交が有った筈の親父たちの間に何とも言えない空気が漂ったので、仕方なく俺が方針を告げた。誰も手を汚したくないだろうから無血で逃げてくれた方がむしろ助かる。


 あ、光が帰って来た。ちょっと拗ねている気がするのは気のせいだろうか?



「皆様、提案が有るのですが構いませんか?」

 

 それまでずっと無言だったフェリックス・ダ・ハビキドル氏が声を上げた。


「フジイデル家の領主と彼の次男がナニワントに逃げるのを見逃して、フジイデル家の家督をラスバブ・ダ・フジイデルが継ぐ事を認めると云うのはどうでしょうか?」


 今回の件にラスバブ氏は関わっていない確証が有るのだろう。

 俺が見る限り仲が良いラスバブ氏に家を継がせる事で、内紛にならない様に収める気だな。

 せっかく纏まりそうなのに、スタートで躓く事を避ける気だ。


 だが、これでフジイデル家の発言力は地に落ちた。 

 巻き返すのは並大抵の事では無い。


「いや、その提案は飲めねえ。親父と弟が敵を引き込もうとしていたのは明白だ。責任を取って、フジイデル家は領主を返上する」


 ラスバブ氏が中々男前のセリフを吐いた。


「良いねえ。すっぱりとしていて俺は気に入ったぜ。で、ハビキドルの息子、どう落とし前を付ける?」



 さすがちょい悪オヤジ。空気を読んだのか読まないのか分からないが結論を出す方向に口を出した。

 なんか、段々とここにちょい悪オヤジが居る事が当たり前の様になって来たな。

 恐るべきコミュ力と言うべきだな。



「フジイデル家はディアーク殿の預かりと云う事でどうでしょうか? ナラル盆地を纏めた手腕なら、容易な事でしょう」



 おい、丸投げか?







【ちょい追記】

 なんとなく個人的に面白かったので書いちゃいます。

 一気読みしていた小説が最新話まで進んでしまったので、「小説を探す」でなんかこんな感じの作品ないかな? と思って『異世界ファンタジー・領主・ミリタリー』で検索したら、幣作がトップで出て来ました(´・ω・)

 うん、分かってしまいました。

 こんな感じの作品って、ニーズが無いって事を ort


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