第29話 『あれは何だ?』





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と或る21歳の男性の独白



 アレは何だ?

 

 確かに、話に聞いていた様に金色のゴムルと銀色、いや、くろがね色に近いゴムルが合わせて4騎居る。


 だが、異形な上に大き過ぎないか? 左手に持っている剣も、一見すると短槍と間違えそうな程の長さが有る。


 第一、他のゴムルとは明らかに存在感が違う。はっきりと言って異常だ。

 アレと遣り合えるゴムルなんか存在するのか?

 少なくとも俺には無理だ。戦わなくても分かる。



「神に祝福されし使徒…」  


 そう言葉を呟いたのはフェリィだ。隣のハビキドル郡の嫡男で、小さい頃からの知り合いだ。

 年上と云う事でアニキつらをするのがうっとおしいが、お節介焼きなだけで本人に悪気が無いのが却って厄介な幼馴染だ。


 今回、俺たちは2人ともゴムルを合戦かっせんで消失したので、戦場から引き返して援軍を引き出す為に一緒にカシワール郡に行った。

 そして、立派に務めは果たせた。

 それも『カシワールの金銀4騎』と云う本命を引っ張り出せたのは大きな得点になる。


 裏切り野郎のヤオル郡のせいでゴムルを消失したが、これで少しは評価を挽回出来た筈だ。


 

 俺の視線に気付いたのか、フェリィが目を合わせて、声を潜める様に言った。


「教会の連中は決して直接は口にしないが、言外に匂わせていた言葉だよ、ラス」


 

 俺と違って教会とも上手く付き合っているフェリィが少し得意気な顔で言った。


 『カシワールの金銀4騎』の奇跡なぞ、いけ好かない教会の連中が、自らの正しさを声高に拡げる為に作った法螺話ほらばなしだと思っていた。


 神の奇跡なぞ、俺は信じない。

 神が人間の事を考えているのなら、こんなに戦乱が続く筈がない。

 だから神など、恵みを齎したり、災害を齎したりもする大自然と変わらない存在でしかない。



「あの『カシバリの狂犬』でさえ、たった2合で斬り伏せられたという話だ。味方になってくれて、本心から有り難いと思うよ」


 いつもは本心を上手く隠して、自分の心を覗かせないフェリィだが、今は正直な気持ちを曝け出している。


 金銀4騎以外のカシワールのゴムル遣いも只者ではない、と云う事を分からされたのは、前進を始めて直ぐだった。

 ゴムルを前進させながらも、ララ竜に乗った自分自身もゴムルの後方を付いて行く様に前進させたのだ。

 ゴムルを操り出して長い年月を経たベテランのゴムル遣いなら可能だが、成人前のゴムル遣いがホイホイと出来る事ではない。

 それを当たり前の様に行っている。


 金銀4騎に至っては、お互いに身振り手振りを交えて、これから行う戦いの打ち合わせまでしている。

 まるで、ゴムルを操る事なんて片手間で出来る、と言わんばかりだ。



 ナニワント国のゴムル5個中隊との戦いは、一方的なものだった。

 この目で見なければ、信じられなかっただろう。

 第一、たった4騎で50騎に真正面から突っ込むと云う発想がおかしい。

 


 もしかして、俺たちは触れてはいけないものを引き込んでしまったのではないだろうか?

 不安になった俺がフェリィの方を見ると、ヤツは興奮した顔で金銀4騎のゴムルを見詰めていた。


 


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 1000騎の内の5%とは言え、後方に回り込まれれば挟み撃ちになって戦線崩壊の切っ掛けになりかねない50騎を排除出来た事は大きい。


 まあ、なんにしろ引っ掛かってくれて良かった。

 俺たちのゴムルの視界が良過ぎるので忘れがちだが、通常のゴムルの視力は人間の裸眼より劣る。

 多分、メガネ無しでも生活は出来るけど、全体的にボヤって見える感じらしい。

 俺たちが前線に近付く様に前進して初めてこっちを見付けた筈だ。


 そして「カモネギ」と思ってくれた事に感謝だ。



 次は混戦の真っ只中に殴りこんで行くだけだ。

 うん、第3中隊のデリー・ダン・ドラド4級士がメチャクチャ笑顔でこっちを見てる。

 あれは、『次は俺たちの番だよね?』と云う笑顔だ。

 

 

『第7中隊は本隊まで後退。第3中隊は第7中隊が本隊と合流次第、前衛を務めて前進。第7中隊の護衛を受けながら本隊が戦線から500㍍の位置まで前進後に金銀4騎と共に突撃する』



 ゴムルと同時に俺自身も同じ内容を言葉にした。

 ドラド中隊長の笑顔が深まった。

 お預けを喰らった分、暴れたいのだろう。


「了解です。一気に形勢をひっくり返してやりましょう」


 大きな声で答えると、部下たちに向けて檄を飛ばした。


「さあ、野郎ども! 第7のヒヨコ5人に先輩が実は強いんだ、というところを見せるチャンスだ。気合を入れてやるぞ」

「おお!」


 うん、脳筋の本領を発揮している。

 まあ、こうやって気合を入れるのも戦いの前には必要な事だ。


 どうでも良いが、カシワール郡領軍に、地球ではラグビーのニュージーランド代表で有名だった民族舞踊「ハカ」を導入すれば、すぐに定着しそうだな。

 あれは戦意高揚に持って来いだからな。

 まあ、やらんけど。



 乱戦の最中と云う事も有り、俺たちは気付かれる事無く戦線の500㍍手前まで接近出来た。

 ここで最後の指示を出した。


「第3中隊の指揮はドラド中隊長に一任します。金銀4騎は各個で敵を撃破。最優先は敵の指揮官級。一気に敵を混乱に落とすぞ。突撃、前へ!」



 朝から戦いを断続的に続けていた事も有り、どちらの陣営も集中力が落ちている。

 そんなところに、気力体力が充実しきった新鮮な5個中隊を瞬殺する新手が現れたのだ。

 

 ナニワント国とヤオル郡のゴムル遣いにとって、悪夢の到来となった。



 1時間後、進撃当初は1000騎を超えていたナニワント国・ヤオル郡連合のマツバル郡攻略部隊は、甚大な被害を受けて退却した。





 

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