第16話 『爆弾発表』
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と或る13歳の男の子の独白(前)
何がなんだか分からない内に、僕たちの初陣は完全な敗北で終わってしまった。
僕たちは、降伏する事を神様に誓った後、戦った場所から少し移動して開けた原っぱに来ていた。
夜になったけど、今居る場所はあちこちでかがり火が焚かれていて、結構明るい。これで暗かったら、もっと不安になったかもしんない。
でもマーティン班長殿が、明るくしている理由がちゃんと有るって言っていた。
僕たちが逃げ出しても分かる様に明るくしているらしい。
逃げ出そうにも、周りにはカシワール郡のゴムルがあちこちに立っていて、すぐに捕まると思うけど。
それに誓いの神様のヅーラ様に誓ったから、逃げないのに…
そのマーティン班長殿は情報を集めて来る、と言って、どこかに行ってしまっちゃった。
「どうなるんだろう、ぼくたち…」
隣村出身で同い年のベンヤミンが、周りを見ながら話し掛けて来た。
「僕にも分からないよ…」
本当にどうなるのか分からないことだらけで、しかも知りたいことだらけだ。
例えば、晩ごはんはいつ食べられるのか? っていうのは、今すぐに知りたい。
だって、お昼ごはんに、炊いたムギルを固めたオニギコを2つ食べただけだから、おなかが空いて仕方が無い。こんなところでおなかが鳴ったら、恥ずかしくて顔を上げれなくなっちゃう。
その他にも、いつ、カシバリ郡に帰れるのか? とか、
本当に殺されないのか? とか、知りたいことは沢山ある。
「おう、坊主ども、今帰ったぞ」
そう言って、マーティン班長殿が帰って来た。
マーティン班長殿は僕たちの真向かいに腰を降ろして、周りを見渡した。
「サカキョー山城に向かった連中も降伏したらしい。まあ、御屋形様が降伏した時点で、どうしようもなくなったからな。もうこっちに向かっているみたいだ」
そう言って、マーティン班長殿が自分の背嚢から飴を3つ取り出した。
「ほれ、晩飯までの繋ぎに舐めてろ」
「ありがとうございます」
この包み紙はアッポ味だ。ちょっと酸っぱいけど甘くておいしいヤツだ。
「それで、僕たちはどうなるんでしょうか? 殺されるんでしょうか?」
マーティン班長殿は器用に片手で包み紙を開けて、飴を口に放り入れた。
「あー、それは無いな。俺たちは傭兵と違って取り決めで命は保証されているからな」
「よ、良かったぁ…」
「とはいえ、身代金をガッポリと取られる事と引き換えだから、もし上が払ってくれなけりゃあ、奴隷にされるか、一生重労働をさせられるかのどっちかだな」
「えー、そんなぁ…」
自分たちの将来が真っ暗闇になるかもしれないと言われて、ますます落ち込んだけど、ちょうどその時にサカキョー山城に向かった先輩たちがやって来た。
「さあて、これで全員が集まったけど、どうやる事やら」
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「あーん!? どうして、毎年攻めて来たかって? そりゃあ、お前、失敗しても大きな損失無しで戦えるからに決まっているだろ?」
決まっているらしい。
「こう言っちゃあ何だが、お前さんとこはお優しいからな。降伏したモンで、これまでに奴隷にされたり鉱山送りになったヤツは居ないだろ? それに隣の郡だからいざとなれば日帰りで帰れるし、食料も金もあまり掛からんしな」
誰だ、ヘアナンド・ダン・カシバリがハチフス山の鉱山を狙っていると言った奴は?
真相は、ただ単にちょい悪オヤジが暴れたかっただけだった。
「まあ、今後は、孫の顔を見るのを楽しみにしとくさ」
「そんな事を言って、何かあれば先頭を切って出て来るだろ?」
「それは否定出来んな」
そう言って、ヘアナンド・ダン・カシバリはガハハハとしか言い様のない笑い声を上げた。
それにしても、親父とヘアナンド・ダン・カシバリは意外と仲が良くないか?
「父上、お二人は仲が良いように見えますが、どうしてですか?」
俺が抱いた疑問を長谷川辰雄二曹が訊いてくれた。
「コイツが小さい頃に何度か遊んでやった事も有るからな。その頃は未だ俺も結婚前だったから、よく遊びに来てたんだ」
確かに昔はカシワール郡とカシバリ郡は仲が良かったと聞いていた。
その時にノックの音がした。
親父の許可を得て、入って来たのはティオ・ダン・ジオ副将だった。
「失礼します。サカキョー山城方面のカシバリ領軍が到着しました」
「そうか、報告ご苦労」
親父はそう言って労った後、続けてずっと控えていた主席文官のグスターベ・ダン・ファルク副相に尋ねた。
「準備は大丈夫か?」
「はい、整え終えております」
「ティオ、全員を移動させてくれ」
「御意」
1時間後、ターナベル砦の大広間には、今回の紛争に参加したカシワール郡とカシバリ郡のゴムル遣い全てが集められていた。
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と或る13歳の男の子の独白(後)
「まさか、みんな集めてここで殺されるってことないですよね?」
ベンヤミンがきょろきょろとしながらマーティン班長殿に訊いた。
相変わらずベンヤミンは心配性だ。
それよりも僕は別の事に気を取られて、それどころじゃなかった。
このにおいは…
「さすがにそれは無いだろ。それにわざわざパーティ会場で殺さんだろ」
やって来たサカキョー山城を攻めていた先輩騎士の人たちと一緒に連れられて向かった先はターナベル砦だった。
攻める時は『ナンコウフラク』だったけど、入る時はあっけなかった。
まあ、1人1人の名前と階級が書かれた名簿を基に、本人かどうかの確認をしたけど。
そう言えば、『ヨウヘイ』の人たちは砦に入れて貰えなくて、砦の外にそのまま置いておかれてた。
しばらくすると、号令の様な声が会場内に響いた。
「カシワール郡領主カズン・ダン・カシワール様ご入場。続けて、ディアーク・ダ・カシワール様、ヴァーレット・ダ・カシワール様、アダルフォ・ダ・カシワール様、アンウォルフ・ダ・カシワール様、並びにカシバリ郡領主ヘアナンド・ダン・カシバリ様ご入場!」
目をやると、会場の上座の位置に在る高台に何人かの人がやって来た。
お屋形様がその中に居た。
安心の溜息をマーティン班長殿が
「多分大丈夫と思っていたが、良かったぜ」
「え、どういう事ですか?」
「まあ、大人しくしていればすぐに分かるさ、きっと」
初めて見るカシバリ郡の領主様は思ったより若い気がする。僕のお父さんよりも若いかも?
戦いの後で見かけた4兄弟も居たけど、同じ顔が4つも有るというのはやはり不思議な気がする。
でも、そのせいでマーティン班長殿とゴムルで一騎打ちした人が分からない。
「まずは、カシバリ郡領主ヘアナンド・ダン・カシバリ様よりお言葉が有ります」
お屋形様が台の真ん中に歩いて行った。
負けたから気落ちしてないか心配したけど、なんだか元気かも?
お屋形様はぐるりと見渡してから話し始めた。
「あー、みんな、今回はご苦労だった。まあ、なんだ、負けたけど全員の顔を確認出来てホッとしたぞ。で、だ、カシバリ郡はカシワール郡に完全降伏する事になった」
え?
どういうこと?
ビックリしすぎて、言葉が出ない。
「みんなも知っての通り、アディは可愛い。マジ天使だ。そんなアディと釣り合う男なんて
何がなんだか分からないけど、みんなに笑顔が戻ったから、ま、いっか?
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