第11話 『初弾』




 さて、どうやってこちらの情報を可能な限り秘匿した状態で全滅させるかだが・・・


 ざっと現在の位置関係と未来の位置関係と予測される敵の行動を脳裏に展開する。


 ジグラ草小隊が避難民と接触したのが670㍍先の街道上で、偵察の為に先に進んだザラ草小隊は800㍍先のカーブしている街道の脇に茂っている背の高い草むらに隠れている。


 そのザラ草小隊が発見した敵傭兵団のゴムル4騎は潜伏場所から500㍍先を秒速2.8㍍で接近中。カーブに姿を現すまで3分弱。その頃には早足になった避難民とジグラ草小隊はここから300㍍ちょいまで来ている。

 カーブを曲がったヤツらからすれば、思ったよりも距離が詰まっていない事に気付くだろう。

 焦って速度を上げる可能性が高い。


 次に打てる手を考えよう。


 長谷川二曹、大橋三曹、山中士長の3人とも、前方に出ているので16式機動戦闘車キドセンを召喚させる手は使えない。

 まあ、発発(発煙弾発射機)を使って姿を隠す手も有るが、その前に姿を見られてしまっては本末転倒だ。どう見ても16式機動戦闘車キドセンを隠ぺい出来る様な植生でも地形でも無い。


 残る手は俺がここから敵4騎を撃破するしかない。


 これまでの訓練から、停車した状態での次弾装填→照準→発砲のサイクルは4秒を軽く切る事は判明している。

 最初の発砲から4発目の発砲までは11秒も有れば可能だ。

 全備状態のゴムルの最高速を秒速6㍍として、11秒間の移動距離が66㍍。

 余裕を見てカーブから100㍍くらいこちら側に引き込めば、十分だろう。


 よし、決めた。



「ザラ草はその場で待機、敵の後続の情報を伝えてくれ。ジグラ草は早足で避難民の護送を継続。残りは別途命令が有るまで待機。敵を引き込んで俺の105㍉で叩く。万が一撃ち漏らしが発生した場合はザラ草で刈り取れ。送れ」

『zii…ザラ草、了解 zi…』

『za…ジグラ草 copy that za…』



 前方に展開した2個小隊に命令を伝えた後、この一帯に展開しているみんなにも命令を伝える。

 3年近く一緒に行動して来たミラ10級士とウードー10級士は心得たもので、あっさりと理解した様だが、初めて行動を共にしている先輩ゴムル遣いたちは怪訝そうな表情を浮かべた。


「まあ、見てて下さい。滅多に見れないものが見れますよ」


 そう言うと、中隊全員が期待に満ちた表情に変わった。


 ついでに、未だ2分強の時間が有るので、周囲に生えている草や落ちている枝などを俺の16式機動戦闘車キドセンの上に放り上げる作業をして貰った。センサー系を塞がない様にミラ10級士とウードー10級士が注意をしてくれた。

 その上で、ロープを使って堆積物を固定をする。


 ごく簡単な隠ぺい工作だが、直線でかたどられたシルエットを不規則なシルエットにするだけで被発見率はグンと下がる。

 人間は自然物と人工物の区別を規則性で判断するからな。何故ならば直線は自然界には滅多に存在しないし、きれいな曲線も同様に滅多に存在しないからだ。


 それに周囲に生えている草などを使ってシルエットを隠す事は陸自では基本中の基本だ。


 まあ、行き過ぎればモフモフパジェロの出来上がりだがな。



 俺の予想通り、敵の傭兵団4騎はカーブを曲がり切ったところで、避難民との距離が詰まっていない事に気付いて、速度を上げた。

 しかも逃げている避難民が慌てた様に更に足を速めた事で焦りが増した様だ。


 ルイルイが事前に速度を上げる様に指示を出していたのだろう。

 なんせ、表情に焦りの色が無い。子供なんかはしゃいでいる始末だ。 



『zi…ザラ草、ララ竜に騎乗した敵傭兵団員4人確認。接近中、距離400、時速30㌔。オクレ zi…』

「ザラ草、敵ゴムル撃破後、確保しろ。落ち穂拾いと夏の虫捕獲の役割分担は任せる、送れ」

『zii…ザラ草、了解 zi…』

  

 長谷川二曹の声には若干の笑い成分が含まれていた。

 まあ、半分は苦笑だ。

 

 さあて、意識を切り替えよう。


 16式機動戦闘車キドセンの砲手用ディスプレイ上には赤色の枠線に囲まれた4騎のゴムルが表示されている。その他にも走って来ている家族や、隠れているザラ草小隊とジグラ草小隊も、黄色の枠線で区別されて表示されていた。


 敵の4騎のゴムルの腹部には照準用のレチクルが固定されている。

 正直なところ、この段階まで来たら、敵に逃れる術は無い。10式戦車譲りの高性能なFCS《火器管制システム》は、ゴムル程度の機動性なら軽々と自動追尾してしまう。


 最初に撃つと決めた、一番遅れている右端のゴムルの腹部に合っている照準レチクルを意識上で押す前に念の為に注意をしておこう。


「大きな音がするので、みんな耳をふさいでくれ」


 慌てて耳をふさいだミラ10級士とウードー10級士に続いて、先輩ゴムル遣いたちが同じ様に耳をふさいだのを見届けてから、照準レチクルをタップした。

 

 そう言えば、初めてゴムル相手に発砲する事になるな。

 人間が乗っていないから、ゴムルを破壊しても死者が出ないのは心理的に助かる。もし操縦者が搭乗する様なロボット型なら、きっと躊躇する部分が有って、抵抗感が心のしこりになって残ってしまうだろう。

 

 初速約1150㍍/secで飛び出した「91式105mm多目的対戦車榴弾(特填弾)」が約0.6秒間の飛翔後に命中した。


 鎖帷子チェーンメイルに巻いたベルトに当たった「91式105mm多目的対戦車榴弾(特填弾)」が発生させたメタルジェット(超高温で超高速の恐怖の流体)が、ベルトと鎖帷子チェーンメイルごとゴムルの素体に大穴を開けて後方に突き抜けた。

 と同時に、ゴムルが、「91式105mm多目的対戦車榴弾(特填弾)」が命中した腹部を起点に白いエフェクトを撒き散らしながら霧散した。


 残された3騎のゴムルの反応は、まず最初に消えた右端のゴムルの方に顔を向けた事だった。

 きっと凄まじい音が発生した筈だからだ。

 こっちの発砲音が届くのに2秒は掛かる。

 それまでに得られる情報は仲間がいきなり轟音と共に消滅した事だけだ。


 発砲音が届いた様だ。

 一斉にこちらを見たが、俺の16式機動戦闘車キドセンを見つけられない。

 まあ、当然と言えば当然だ。その為の偽装をしてあるのだから。強いて言うなら発砲煙が流されているのを見て怪しいとは思っただろうがな。


 だが、それもすぐに終わる。

 次弾装填完了のランプが点灯したので、左端のゴムルの照準レチクルをタップした。

 



 最終的に、俺が4騎全てのゴムルを撃破し、更にはザラ草小隊が傭兵団のゴムル遣い4人を確保して、俺たちの初めての戦闘が終わった。




◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆

と或る29歳男性の独白



 ヤベー・・・

 マジ、ヤベー!


 何がヤバいって、訳が分からない内に戦闘が終わった事だ。

 矢が届かない距離から一方的に攻撃出来るなんて、敵にとっては悪夢だぜ。

 はっきりと言って、敵に回したくないな、俺は。

 敵に回るくらいなら、すぐに降参する。

 勇猛果敢と無謀は別だからな。


 それと、1つ分かった事が有った。

 演習場から偶に聞こえて来るすごい音が、『カシワールの金銀4騎』の秘密のゴムルが上げる音だという事だ。

 それまで、落雷説が有力だったが、まさかこんな凄い武器から出る音とは誰も考えていなかったぜ。


 俺たちの中隊全員の目がカシワール郡次期領主のディアーク様に向いた。

 

 

 ディアーク様が、俺たちを見て、ニヤリと笑って言った。

 その笑顔は嫌に男くさかった。


「ね、滅多に見れないものだったでしょ?」


 思わず、全員が片膝をついて、最高礼の姿勢を取りながら返答した。


「御意」



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