第六章 紫の正体

ルグネツァを失ったアドヴィエスは、簡単に力を失くした。

 そのため攻撃能力を喪失し、ある晩ルグヴィエル王国に攻め入れられて完敗した。これによって戦争は終結したわけである。

「ずっとずっと、悪い夢を見ていたみたい。頭のなかで声が響いていて、あれを攻撃しろ、あっちを攻撃しろ、次はあれだ、次はあっちだって言われて、言う通りにしないと仲間をひどい目に遭わせるぞって言われて、仕方なくそうしていたの」

「なんてことしやがる」

 アフォンソは酒を飲みながらぶつぶつ言っている。今日はルグネツァが戻ってきたお祝いである。

「これで記憶が戻れば万々歳なんだけどな」

「ええ……」

 ルグネツァの表情が曇る。

「そうはいかないみたい」

「まあまあ」

 アールが酒を注ぐ。

「今日は飲もう」

 男たちが酒を飲む間、ジェルヴェーズがいなくなったことに気がついたルグネツァは、そっと席を立って酒場から出て行った。

 そして表に立って風に当たっているジェルヴェーズを見つけると、その銀の髪が月の光に光るのを見て、声をかけた。

「ジェルヴェーズ」

 彼女はルグネツァに気がつくと、ちらりとこちらを見た。

「あの……アールから聞いたわ。今回のこと、あなたが尽力してくれなかったら、私は助からなかったって。あなたが少なからず嫌な思いをしてくれなかったら、私は今も捕らわれていたままだったって」

「……」

 そよ、と風が吹いた。

 ジェルヴェーズは振り向かない。

 昔の傷を、ほじくり返した。

 なぜそうしたかは、自分でもわからない。

「なあに」

 ジェルヴェーズはうつむいたまま、振り返った。

「ちょっと気が向いただけの話」

 そして静かに酒場へ向かって歩き始めた。

 ルグネツァはその背中を、不思議そうに見送った。

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