第三章 4

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 目を開けると、白い天井が視界に映った。

「あ、気がついたみたい」

 ジェルヴェーズの声がした。声のした方に目を向けると、アールが座っていた。

「ルグネツァ。起きたね」

 アールはこちらへやってきて、ほっとしたように自分を見た。ルグネツァは起き上がった。

「起きて大丈夫?」

「うん。……平気」

「急に倒れたからびっくりしたよ」

 側にはほかの仲間たちもいた。

「あの割れ目の暗いところを見たら、急に思い出したの。……私ラズグラドと言い争ってた。ラズグラドは私に言ってた。『お前は私のものだ、お前に意志などない、私の従属物だ』って。それからなにか、光みたいのがちかちか光って……」

「随分乱暴なものの言い様だね」

 ジェルヴェーズが腕を組んで言った。

「それで、追い出されたんだと思う」

「じゃあ、喧嘩したってこと?」

「会いに行ったら、また喧嘩になるかな」

「でも会いに行かないと、ルグネツァが誰かわかんないよ」

「さすがに記憶を失ったことまでは知らないだろう」

 アリスウェイドが言葉を継いだ。

「どうにかして会いに行って、事情を話して何者か教えてもらうしかない」

 そんなことは可能なのだろうか?

 疑問が頭をよぎる。

 とてもとても、そんな平和なやりとりができるような生易しい関係であったとは言い難い空気であった。ひりついていたというか、切りつけるようなというか。

「他になにか、思い出したことはないかい」

 アールに問われて、ルグネツァは考え込んだ。

「……なにもないわ」

 一同は嘆息した。

「そうか……」

 アリスウェイドはため息をついて、

「よし、少し休もう。ルグネツァも皆も疲れている。ここで休息したところでなにも変わらないだろう」

「そうしよう。ルグネツァ、ゆっくり休んで」

「え、うん」

 一同が出て行って、ルグネツァは窓から空を見た。

 白い雲が浮かんでいる。

「私はラズグラドの所有物……」

 いざ口に出すと、それはなんだか恐ろしい響きを持っている。

 所有物って、どういうこと? 私は人なのに? ラズグラドと私はなんなの? 私たち、どういう関係なの?

 指の青い宝石に触れて、自らの瑕を思う。

 私の瑕は、思い出せないこと。でも思い出したら、瑕は瑕じゃなくなる。そうしたら、私はどうなるの?

「アール……」

 ぽつりと呟いたその声すら、小さすぎて部屋の隅に消えた。

 廊下に出たアリスウェイドは、前を行くジェルヴェーズの銀の髪を見てこんなことを言った。

「戦士というものは実戦経験が一度もなくともいきなり戦場に出て剣を振るう。生き残るために戦うから型もなく筋も目茶苦茶だ。その中で見込みのある者だけが生き残り、自分流のやり方で剣を鍛えていく。技も筋も独特に洗練されていく。それを戦士と呼ぶ」

「?」

 ジェルヴェーズはなんのことかと振り返ってアリスウェイドを見た。

「君の太刀筋は、我流のものではないね」

「――」

 ジェルヴェーズの空色の瞳が、わずかに細められた。

「だからといって学校でやるような教科書通りの筋では無論ない。君のその太刀筋は」

「いちいちうるさいね。あんたには関係ないよ」

 アリスウェイドの言葉を遮って、ジェルヴェーズは怒鳴った。そして、つかつかと廊下を行ってしまった。しかし、背を向けたままではあったが、彼女はふっと目を伏せて彼の慧眼に舌を巻いていた。

 さすが剣聖と呼ばれた男……見抜かれたか。

 表を見ると、桜の月の空が青い。

 春真っ盛りであった

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