四
ガラス張りから差す直射日光も薄れ、空の色はこんがりと茜色に染まるような時間帯。
日本の端っこにあるような街は19時と言ってもまだ太陽は見えているが、練習はその時間で終わった。
どうやら学校からは日が出る時間で終わるように指示が出されているらしい。
私たちはさっさと着替え終わり、ロビーを訪れた。
「はぁ……疲れた」
再来週辺りには夏の大会が待っている。
それが理由で練習も特にハードに感じられた。
……おかげで私が受けたショックも立ち直れたように感じているのだが、どうやら日常というのはすぐに壊されるものらしい。
…………私を待っている間、アキちゃんが真田くんと一緒に談笑している姿を見てしまった。
「……………最悪」
誰にも聞かれぬように私はぼやいてしまう。
しかし、それもそうか。そう言い聞かせながらも私は二人を見やってしまう。
相変わらずアキちゃんと真田くんは親しげと言った様子で、私から見れば入る隙間もないと言った感じ。
なんだか邪魔してはまずいな、と言った気持ちにさせられる。
いつもだったらアキちゃんと私は一緒に帰るのだが……ああいう光景を見てしまうとなんだか申し訳ない気分になってしまう。
ここは黙って帰った方がいいだろう。連絡はこの建物から出たあとにしちゃえばいい。
そう思っていたのだが。
「あ、カコ。お疲れ」
私が立ち尽くしている間に向こうから来てしまった。
「あ、アキちゃん」
「どうしたの、カコ?なんだかすごい表情してたよ?」
「…………どんな表情?」
「酷く疲れた表情」
よかった。それだったら誤魔化しは効く。
「まぁ、今日の練習は意外ときつかったから……」
「そうだよね。カコも頑張って練習してたもんね。コーチが褒めてたよ?これだったらいい記録を残せるだろうって」
「あ、そう」
コーチが褒めてた話はあまり入ってこなかった。
正直、ここから早く立ち去りたいのが本音だった。
「…………?本当に大丈夫?」
「全然!大丈夫大丈夫!でも疲れたから私は先に帰ろうかなって!」
「あ、もう帰る?いいよ」
いいよ?
私は首を傾げた。
「一緒に帰るの?私と?」
「当たり前じゃない。いつものことなのに」
アキちゃんもまた首を傾げる。
だから私は率直に問いかけた。
「真田くんと帰るんじゃないの?」
私の言葉にアキちゃんの表情はきょとんとなって、ますます首を傾げる。
「ソウジくんと?家も反対方向なのに」
「ソウジくん……?」
私は唖然としてしまう。
「ソウジくんって……」
「…………アキ」
私の頭の中を疑惑の言葉が埋め尽くし思考停止されようとしている中で、疑惑は自らやってきた。
「俺……もう帰るから」
「うん、ありがとね。付き合ってくれて」
「あぁ」
そうして真田くんはアキちゃんを見ながら、さっさと建物から出て行ってしまう。
私の脳内は疑惑の言葉で支配されながらも、なんとか感情を宿して疑惑という呪縛を取り除いていく。
解き放った疑惑はどうなるか?
無論、言葉となって解き放たれる。
「え?え?アキちゃんアキちゃん。真田くんと付き合ってるの?」
私のド直球な質問にアキちゃんは……
「ううん、付き合ってないよ」
さらなる疑惑を増大させて返答してきた。
「えぇ!?なんで!?なんで付き合ってないのに下の名前で呼ぶの!?」
「まぁ、ちょっと訳ありって感じかな」
「訳ありって……何がどうなれば訳ありになるの!?」
「うーん……まあ、なんて言えばいいんだろう……説明が難しいかも」
そう言われてこちらがあっさりと引き下がるだろうか?
答えは簡単。
「まぁ……そういうことなら」
私はあっさり引き下がった。
「別にカコが思ってる関係はないよ?普通に親友って感じかな。親友だったら普通に下の名前で呼ぶじゃない」
「それはまぁ……人次第だけど、まあ……」
「本当に彼氏とか、そういうのじゃないよ?そもそもソウジくんが付き合いたくなさそうな感じだし」
「…………なんで?」
「さぁ、なんでだろう」
その言葉にアキちゃんは困ったように笑った。
それは確かに不思議なことだ。仲もそれなりに良さそうだし、親しげに下の名前も呼んでいる。だけどどうして付き合いたくないのだろうか?
「確かによく分からないわね」
「うん。分からないよね」
そう言ったアキちゃんの表情は少し寂しそうに見えた。
アキちゃんからすれば、もっと深い関係になりたいのかもしれない。
しかし真田くんはそれを拒んでいるというのだろうか?
考えれば考えるほど、真田くんが分からなかった。
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