亜紀
2人は砂浜で、並んで大の字に寝転びながら天を仰いでいる。
見上げている空は、半分は夕暮れの紅色で、もう半分は薄闇の
波の音と、巣へと帰る鳥の鳴き声が心地よい。
風は止み、まだ砂はじんわりと熱を保っていて、寒さは感じない。
ただ、濡れそぼった衣装と体中に纏わり付く砂の感触には耐えがたいものがあった。
「みづき先輩」
「あ……は、はい。その、先輩と呼ばれるのはちょっと、こそばゆいです」
みづきが体を震わせて、苦しそうな細い声を上げる。
それを見た凜霞はみづきの耳元ににじり寄って、息を吹きかけるように囁いた。
「みづき、せ、ん、ぱ、い」
「や、やめてください!」
みづきは頬を染めて耳と顔を覆い隠す。
凜霞は、ふふ、と声を漏らし、妖しい笑みを浮かべる。
「もう、動けそうですか」
「凜霞さ……ちゃんこそ、大丈夫ですか?」
「私は、はい。なんとか動けそうです」
「よかった」
凜霞は体の力を抜いてごろりと横たわり、空を見上げながらみづきに語りかける。
「帰りはどうしましょうか」
「うーん、バスの予定だったんだけど、この格好では乗れないよ……」
「困りました。まさか、このまま浜で朝を迎えるしかないのでしょうか。それでは私の最初の計画通りになってしまいます」
「うわー、ぜんぜん笑えないよぉ。凜霞ちゃん、火の起こし方って、知ってる?」
「ライターとか……いいえ。よくわからないです」
「です、よね……」
ふんふん、ふんふんふん
獣の呼吸音と共に、大きな影が二人の並んだ頭の上に落ちる。
見上げると空はなく、モップのように生えそろった長い毛と、その先端には夕焼けに染まる黒い鼻があった。
ぉん!
獣が吠え、その声は空気を切り裂き、空に響き渡り――
「おーい、たろーまるー。帰るぞー」
芯のある、よく通る声が遠くから聞こえて、
「ん……。はあー? 何してるの。キミ達」
そして1人の女性が現れた。
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