第6話
翌日の夜。約束通りに伯爵はやってきた。いつもの格好とは違い黒づくめの服に裏地の赤いマントを着ている。
「ドレスコードか?」
「そんなものだ。あなたは気にしなくていい。客人だからな」
そう言って腕を差し出される。気乗りしないがその腕に手を置くとあたりが黒い霧に包まれた。
「なんだ!?」
「大丈夫。手を離さないで」
その言葉通り伯爵の腕を掴んでいるとあたりの霧が晴れてきた。そして見えた風景は、さっきと打って変わっていた。
屋敷の玄関先にいたはずがどこかの大広間にいる。窓には遮光カーテンが取り付けられ、灯りがあっても薄暗い。黒と赤を基調にしたインテリアで飾られ、列席者たちの装いもそれに同調している。
「ようこそ吸血鬼集会へ」
伯爵はにこやかに笑った。
「あら! ブラッド伯爵」
「ダドリー夫人。ごきげんよう」
「ごきげんよう。そちらの方は?」
「わたしの友人です。少し調べ物がありまして」
「そうなの。 最近物騒だものねえ。 あなたも楽しんで!」
ダドリー夫人と呼ばれた貴婦人はお茶目に笑ってまた別の集団へとおしゃべりに興じに行った。
「わたしは少し用事があるから外す。何かあれば呼んでくれ」
言うと伯爵はまた黒い霧に包まれて消えてしまった。手持ち無沙汰なのでテーブルによる。酒のようなものを手に取るが人間も飲めるものなのか? 一口くちに含む。悪くない。
そうしているといつのまにか周りに人だかりができていた。こそこそと話し声が聞こえる。
「あの方が……」
「ブラッド伯爵がねえ」
なんだ。人間が物珍しいのか。それとも襲おうとでも画策しているのか。
最初は無視していたがだんだんと腹が立ってきた。
「一体なんなんだ!」
大声を上げるとあたりはぴたりと静まった。それと同時に黒い霧がしゅるしゅると現れる。
「どうかしたか」
「周りの奴らが何か言っている!」
「ああ、それは首筋にわたしの噛み跡があるからだろう」
「それがなんなんだ」
「ふつうはパートナーにしかつけないものなんだ」
「なんだと! 消せ!」
「消せないよ。それについてる方が安全だ」
「ぐ……」
なんだか丸め込まれてしまったようだ。気に入らないがどうしようもない。
「みなに聞きたいことがある!」
そうこうしてるうちに伯爵が声を張り上げる。
「最近怒った殺人事件で被害者の首筋に噛み跡があった。何か知っているものはいないか!」
とたんにざわざわとなる室内。そこで小さな手が上がった。子供のようだ。
「何か知っているのか?」
「小さいことかもしれないけど」
「なんでも教えてくれ」
「その街で狼男を見たって友達が言ってたんだ」
狼男!室内のざわめきも大きくなる。
「ありがとう。参考になった」
伯爵は少年に礼を言った。そしてわたしの方に向き直る。
「厄介なことになりそうだ」
「そうだろうな」
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