第3話
妻の葬儀の準備を進める。つい数日前にメイドたちが楽しそうに結婚式の準備をしていたのを思い出す。式の準備といってもこうまで違うものか。
一通り準備を終え、礼服を着て外に出る。わたしの家族と妻の家族、メイドの家族が集まっていた。妻もメイドもまだ若い女性だ。かわいそうに。わたしは二人の白い顔に鼻を贈った。
墓は地中深く埋められる。わたしを嫌っていたとはいえ先程まで生きていた人間の最後となるといやに悲しいものだった。
夜。ようやく休息の時間が訪れた。紅茶を片手に領土の資料に目を通す。すると。
トントントントン
玄関ホールから音が聞こえてくる。
トントントントン
向かうとやはり誰かがドアを叩いているようだ。
ガチャリ
「ブラッド伯爵」
「ああ、ごきげんよう」
半ば予想通りの人物だ。
「どうしてここまで?」
「話すと長くなる……招いていただいても?」
「もちろん、どうぞ」
暖炉そばのソファに座らせると伯爵は居心地が悪そうに足を小さく折りたたむ。
「それで、どうしてここまで?」
「ああ、それが……」
ブラッド伯爵はこちらに目を向けていう。
「わたしを信じてもらえるかな」
黒いはずの目は暖炉の日を受けて赤く燃えていた。私はなぜかこの男を疑うことができない。
「もちろん、信じますとも」
「それならよかった。あなたの奥方様についてはご心痛いかばかりか」
「いえいえ、そういう話はいいのです」
「それでは、ごほん」
伯爵は咳払いをすると驚くべき事実を語った。
曰く、妻とメイドを殺したのは人間ではないらしい。妻とメイドの首筋には噛み跡があり、吸血鬼の仕業が疑われているということだ。
伯爵自身はそれすらも疑っているようだったが……
「というわけで、あなたに噛み跡をつけさせてほしい」
「うむ、はい? 噛み跡?」
「ええ、同朋同士の決まりで他の者の獲物には手を出さないという決まりがありまして。その印になるのが噛み跡なのです。」
「なんでそんなものをわたしに」
「あなたに死んで欲しくないからですヴォルテール男爵」
「ぐ」
あの遺体がフラッシュバックする。人体を弄ぶような残忍な殺し方。あんな目に遭うのは真平ごめんだ。
「わかった! つけてくれ」
「ありがとうございます!」
ブラッド伯爵はわたしの首筋を眺めるとべろりと舐めた。
「ひっ」
「すみません。少しでも痛くないようにです」
伯爵の顔が近づいてくる。わたしはえもいわれぬ恐怖に目を閉じてしまった。
ぷつり
皮膚の裂ける音がする。そして少し吸われる感触。
「はい、終わりました」
「もう、終わりなのか」
「ええ、跡をつけるだけですから、十分です」
拍子抜けした。
「これで大丈夫なんだな!」
なんだか照れてしまって大声で聞いてしまった。
「ええ、犯人が同朋なら大丈夫のはずです」
伯爵は思案顔のままそういった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます