第12話−王宮−
未だ決まらぬ正妃選び。
側妃達は日に日に争いが激化しているようで毒見係がその場で亡くなる事も増えてきた。どの妃も隠さなくなってきた。
最悪の状況だ。
そして貴族達の争いで最も激化しているのが食糧についてだ。我が国の穀物の生産は安定しているが、どうやら側妃の派閥に入っていない貴族に派閥に入らなければ穀物の価格を上げると脅しているのだ。
そうなると様々な所で同じような諍いが起こっている。俺は王になってから仕方なくだが良い王になるべくやってきた。側近達も俺の言う事、行う事は尤もだ、と賛成していたが、そんな側近達も日に日に顔色が悪くなっているように見える。
「フォルス、どうしたんだ」
フォルスは俺が任命した新しい宰相だ。前宰相の補佐官を務める男。そこそこ仕事が出来て文官から信頼も厚いらしい。そんな宰相が執務室に青い顔をして入ってきた。
「陛下、この書類を・・・。財務官から陛下にお願いするようにと」
俺はその書類を見ると、今月の支出額に驚いた。
「フォルス、どうなっているんだ!?この金額は可笑しいだろう!」
「何もおかしくはありませんよ。側妃様方が挙ってドレスを買い、お茶会や舞踏会を開催しているのです。側妃様達を止めて下さい。国が破綻します」
「・・・あぁ。そうだな」
「陛下、正妃を早く決めて頂かねば貴族達の争いが激化してしまいます。それこそ戦争を招きかねません」
「・・・そうだな。だが、どの妃も正妃には向かん」
「ええ、そうでしょうね。彼女達を黙らせる程の器量の良い新しい妃を他国からお迎えになりますか?」
「ローザアネットはどこにいるのだ?」
「・・・何故言わねばなりませんか?」
「どうしてだ?」
宰相は眉を顰めた。
「陛下、ローザアネット様は既に離縁されています。今更探してどうされるのですか。ローザアネット様は病で公務が出来ず正妃になれないと辞退されたのでしょう?病人を縛り付けて働かせるのですか?」
「・・・だとしても戦争になるよりはマシだろう」
宰相は大きく溜息をついてあからさまな態度を取る。
「陛下、ローザアネット様は「陛下っ!!!申し上げます!隣国カルマンハイルより国境付近に多数の軍勢。その数およそ2000!」
宰相と話をしていた時、扉が急に開かれたと思ったら伝令の騎士が大声で告げた。
「何!?それは本当か!?不味いぞ宰相」
宰相は冷静にアロイス陛下に話をする。
「陛下、落ち着いて下さい。国に攻め入るのに2千では到底足りません。何かあるのではないでしょうか。それに国境に接する領地はグラード領と国領があります。まずグラード公爵が足止めをするはずでしょう」
アロイス陛下は宰相の言葉に落ち着きを取り戻し、すぐに側近や大臣達を招集した。勿論王太子のザイルもその場に出席をしている。そしてアロイス陛下はツィルトン先王をその会議に呼ぶことにしたのだ。
紛争や戦争に関して実戦経験が無いのでこればかりは仕方がないと。緊急招集で集まったせいか会議室は騒然としている。そして側近の中には顔色が悪い者や大臣の中にも怒っていたりと様々な反応を見せていた。
そして一番最後に会議室に入ってきたのはツィルトン先王。どことなく不機嫌な様子。突然の呼び出しは良くない知らせでしかないのだ。
「アロイス、私を呼ぶとはどういう事だ?」
「父上、お呼び立てしてすみません。一刻を争うのです」
「で、その一刻を争う事とはなんだ?」
「カルマンハイルが国境付近に2000もの兵を配備しているのです」
「ふむ。国境を越えた訳ではないのだな。して、相手方から何か連絡はあったのか?」
「いえ。なにも」
「・・・ではこちらの掴んでいる情報は?相手の目的は?」
「・・・宰相、知っているか?」
ツィルトン先王は冷静に情報を集めるようにその場にいた者達に聞くのだが、他の者たちもいまいちよく分かっておらず、ツィルトン先王はイラつきを隠せないでいた。
「ではカルマンハイルの近況はどうなっておる?軍を率いているのは誰だ?」
アロイスはおどおどしながら宰相に聞く。
「カルマンハイルの最近の情報と致しましては2年ほど前にボロオン国との戦争をしていましたが勝利しています。
その後、ボロオン国を支配下に置き第2王子率いる騎士団や文官達が復興の後押しをしているようです。
それと同時に周辺国に平和協定を結び国として盤石の態勢を敷いているようです。現在国境にいる兵については騎士団長、報告せよ」
騎士団長は立って一礼すると報告をする。
「現在、国境付近にいる兵は第3王子率いる金剛の騎士団であります」
騎士団長の報告を聞いた途端にツィルトン先王と宰相は苦虫を噛み潰したような表情となった。
「父上、第3王子といえばノイマンですよね。それがどうしたというのです?」
「馬鹿者!!!お前は知らんのか!」
ツィルトン先王の怒りで会議室の雰囲気は一変した。
「ノイマンはカルマンハイルが行っていた長年の戦争を終結させた王子なのだぞ!その戦略、武力全てにおいて才能を発揮し、周辺国から恐れられているのだ。そんな事も知らんのか!
それにノイマンが率いる金剛騎士団は一騎当千と呼ばれる程の超エリート集団だ。並みの兵士では歯が立たん」
ツィルトン先王の怒りの説明でようやく理解したのか一同青い顔をしている。
「ここから国境まで約10日。相手の動きも分からぬまま騎士団を送っても無駄に戦争を引き起こしてしまうだろう。騎士団長よ、ノイマンから連絡はないのか?」
「はっ、現在はありません」
「では、ノイマンに連絡を取れ、そしてグラード領にいる公爵に至急連絡を取り、金剛騎士団が越境した場合、速やかに迎撃するよう指示を出せ」
「承知致しました」
ピリピリした雰囲気となった会議室。俺は父の出す指示に従うしかなかった。各大臣にも指示を出し、緊張が高まる中続報を待つ事になり、一旦会議は解散となった。
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