第13話−王宮2–

 部屋に残った俺と父、それにザイル。


「何故こういう事になったのか分かるか?」


父の厳しい声に俺は言葉が詰まるが、息子のザイルが代わりに答える。


「お爺様、国の状況を見て隙を突かれたのだと思います」


「ほう、どういった状況だ?」


「母上達の正妃争いが貴族たちに波及し、貴族間での食糧や鉱物などの取引に圧力を掛けるなど不和が生じています。そして弱い貴族の領地では領民が貧困に喘ぐ事が増えてきており、王都に職を求める民が増えております。


移民の増加により、スラム地区が増え、治安も悪くなり、孤児も増えてきております。このままでは王都の治安も悪くなる一方であり、このまま不和が広がり続けると貴族達は国に協力をしないようになると思われます」


「情けないことだな。アロイス。幼い孫の方が現状をよく知っておるようだぞ?」


「父上、申し訳ありません」


「ではザイルよ、お前は今すぐ弟妹を纏め上げよ。場合によっては側妃達から兄妹を引き離せ。これ以上国を割らぬ為に」


「承知いたしました」


そうして家族会議も一旦終了となった。



 それから5日後、早馬で送った知らせが届いたので俺たちはまた会議室へと集合する事になった。


「騎士団長、報告せよ」


「はっ。まず、金剛騎士団は国境を越え、グラード領に入り3日程で制圧されました」


「なっ!3日で制圧だと!?」


1人の大臣がそう言葉にする。それもそうだろう。広い公爵領を制圧出来るとは思ってもいなかったからだ。


「そして金剛騎士団は国領へと侵入し、緑の離宮をも制圧しました。現在は侵攻を停止しております」


騎士団長がそう報告すると、ツィルトン先王は舌打ちをした。アロイス陛下は侵攻した事に気を取られ気づいていない様子。


「やつらの目的はローザアネットであったか」


ツィルトン先王がそう言葉を漏らすと、宰相は口を開いた。


「カルマンハイル国第3王子ノイマン殿下からの知らせが来ております」


「・・・報告せよ」


「では、報告させていただきます。『ローザアネットを我が妃として迎え入れる事を条件に侵攻を止めてもいい。我が国には金剛騎士団を先鋒として後方に100万の軍勢が既に準備を終えている。良い返事を待つ』との事です」


「チッ。してやられたな」


ツィルトン先王は渋い顔でそう言っているが、反対にアロイスの表情は明るい。


「なんだ、そういう事か。ノイマンはローザアネットみたいな面白くないやつが好きだったのか。


父上、認めてもいいのではないですか。戦争になるくらいなら女の1人くらい渡したら。宰相、許可するように伝令を出せ」


その言葉に流石の宰相も目を見開いている。


「・・・ほ、本当に宜しいの、ですか?」


宰相はツィルトン上皇に視線を向ける。


「・・・仕方がない。手痛いが、今はこれ以上の侵略を許してはならん」


「はっ。畏まりました。では」


アロイスはローザアネットに関する書類をその場でサインし、宰相が伝令へと手渡した。そしてそれを見届けるとツィルトン先王が立ち上がり宣言する。


「これよりアロイスは王を退位し、息子のザイルが王となる。だが、ザイルはまだ幼い。成人するまで儂が引退を取りやめ仮の王として復帰することとする」


大臣や騎士団長達は一斉に立ち上がり、臣下の礼を執った。驚いたのはアロイス。彼は理解していないようだった。


「父上、何故です!?」


ツィルトンは冷たくアロイスに告げる。


「息子よ、お前は愚か者になり果てた。お前の器量の無さで国を、貴族同士の溝を作り、領土を減少させる原因となったのだ。そしてローザアネットを他国に取られた。この意味も分からんのか」


「わかりません!あの女がそれほどまでに重要なのですか!?」


この言葉に周りは唖然としている。


「ローザアネットは長らくこの国の王太子、王太子妃の政務をほぼ1人でこなしておった。つまりこの国の情報の大半をローザアネットが握っておったのだ。


他国に情報が洩れてしまう。洩らさない為に緑の離宮に住まわせておったのだ。


それに国の貴族達を纏め上げる程の手腕だ、妃として働いていたらそれは強みになるが、他国へ流出すれば脅威としかならんのだ。


外交面でも、民の信頼もそうだ。そしてグラード公爵領もあちらに落ちた。


損失は甚大だ。これ以上損害を出さぬ為にお前は謹慎だ。側妃達の権限も剥奪する」


 ツィルトン陛下はそう言うと部屋にいた騎士にアロイスは連れ出されてしまった。



そこからツィルトンと大臣、宰相達は連日早朝から深夜まで対策に追われたのは言うまでもなかった。

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