第9話

 私とアロイス殿下の結婚は盛大に行われたが、アロイス殿下は私に目を合わせる事無く式は執り行われたの。


人生で一番幸せと聞いていた花嫁姿。こんなにも辛いものだとは思っていなかったわ。彼は式後の初夜にも訪れる事はなかった。


 そして婚姻後すぐにアロイス殿下の意向で側妃が迎えられる事となった。選ばれたのは第一側妃のサーロア様だ。


彼女は後宮に入り、すぐに身ごもった。それを皮切りにアロイス殿下は第二側妃のマリンナ様、第三側妃のグレース様が迎えられた。


 婚姻してからすぐに側妃も迎えた事で手一杯となったのかアロイス殿下のオリビア様への寵愛は冷めていったようだ。


始めのうちは毎日会いに行っていたが、少しずつ日が空き、彼女の出産前にはついに後宮へ篭ってしまっていたのだ。



そして殿下に付き添われる事もなくオリビア様は出産した。


 オリビア様の産んだ子はアロイス殿下に何一つ似ていなかったのだ。彼女は『違う、違う。そんなはずはない』と、うわ言のように繰り返していたが、罪人に施す入れ墨を施され、母子共に国外追放となった。


処刑されなかったのは子供がいたからだという。その後の彼女の行方を知る者はいない。彼女の実家である男爵は爵位返還し、平民に戻った。



 私はアロイス殿下に嫌われ執務をこなすだけの存在となっていったわ。それでも陛下や父、文官達はみな私に良くしてくれたと思う。


私は自暴自棄になってがむしゃらに働いていただけだと今は思うわ。


私の存在なんてどうでもいいものだと自分でも思っていたもの。


だから倒れてしまった。






 この離宮に来てからは王家の話は一切聞こえてこない。ただ静かに過ごす毎日。偶に来る友人たちとお茶をしたり、家族と会ったりしている。こんなにも穏やかな生活は今までになかった。


今が一番幸せなのかもしれないわね。


 ここに来て小さな出来事にも目を向けられるようになったわ。バラが咲いた、鳥が近くの枝に巣を作った。何気ない日常にも時間が存在しているのだと気づいたわ。


父は望まぬ結婚をさせたとずっと後悔していたようだけれど、今の事を考えるなら結婚して良かったと思えるわ。


 現在兄は父が隠居した事で公爵として仕事をこなしている。王宮には余程の事がない限り登城する気はないようで年の半分以上を領地で過ごし、残りは王都のタウンハウスで生活をしている。


領地にいる時は偶にこの離宮に隣国の食べ物を持ってきてくれる。そんな生活が半年は経ったかしら。


 

 ある日、隣国から私に面会の申し出が届いた。私が緑の離宮にいることは家族や本当に親しい極一部の友人しか知らせていないのに。


情報が洩れているとしたら少し心配よね。でも、王族では無くなった私に会ったところで何の利益も無い気がするけれど。

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