第8話

「ローザアネットお嬢様、中庭でお茶でもしませんか」


ターナはバラが咲き誇る中庭のガセボにお茶の用意をしてくれたようだ。私は咲き誇る花を眺めて過去を振り返っていた。




―8年前の出来事―


「ローザアネット、君には失望した。婚姻は王命だから破棄する事は出来ないが、これから夫婦となっても私からの寵はないと思え」


 卒業を控えた私は王妃教育で忙しく、学院に登校する事は殆ど無くなっていたのだが、その日、私は珍しく登校した時にアロイス殿下から王族専用サロンに呼ばれた。


サロンには彼の側近と見知らぬ令嬢がアロイス殿下の横に座っていた。


 そして開口一番そう彼は言ってのけたのだ。唐突だったし、この状況に驚き、何も言えなくなってしまった。


側近達は何故殿下を叱責しないのかしら。そして横に座っている令嬢が目を潤ませて話し始める。


「ローザアネット様、ごめんなさい。私が、私が悪いのですっ。教科書を捨てられたのも、階段から突き落とされたのも私がアロイス殿下をお慕いしたせいなのですっ。


貴方がしたことは許せないけれど、婚約者のいる殿下をお慕いしてしまった私が悪いのっ」


誰か分からないけれど、私が彼女を苛めていたらしいのは理解したわ。そして令嬢が泣いて訴える度に側近や殿下は頷き、私に憎悪と敵意をむき出しにしてくる。


「・・・意味が分かりませんわ。そもそも貴女は誰かしら?」


「ご、ごめんなさいっ。私、オリビア・ウーノと言います」


「はじめまして、オリビア様。私がやったと仰っておりましたが、そもそも私は最上級生になってから殆ど学院に来ておりませんわ。どなたかとお間違えではございませんこと?」


私はそう疑問を投げると彼女は震えて泣き出した。話が進まないわ。すると、側近の1人が私に剣を向けて威嚇する。


「オリビアはお前に虐められたと言っているんだ。言い訳とは見苦しいな。


それに、それに、オリビアには殿下の子がいるんだぞ。これ以上追い詰めるな!」


側近の言葉に私は驚き、殿下に質問する。


「アロイス殿下、どういう事でしょうか?彼女を妾にするおつもりですか?」


「何を言っているんだ。オリビアは私の大切な人だ。馬鹿にするな。王命でお前は仕方なく王妃になるのだ。


オリビアは側妃に決まっているだろう。それに、お前の親友のサーロア嬢もお前がオリビアを虐めたと同意していた!」



・・・どういう事かしら。



 何故やってもいない罪で側近に剣を向けられているのか。私が殿下に執拗に嫉妬をして他の令嬢を虐めているという噂は耳にしたことはあるわ。


でも所詮噂。私はそもそも学院に来ていないのにどうやって虐めるのかしら。甚だ疑問だわ。


「よくわかりません。が、婚約破棄も含めて父に話をさせていただきますわ。影の報告も上がるでしょうから陛下は判断してくださると思いますわ。


それから、剣を向けた貴方。この先の事を考えておくのね。では失礼しますわ」


 私は急いで王宮に行き、父に話をすると、父は怒り狂ったように陛下の執務室に突撃していったわ。


私はそのまま帰宅した。


 翌日帰宅した父にどうなったか話を聞いたのだけれど、婚約破棄はされなかったようだ。


陛下は影からの報告を聞き、すぐに調査に乗り出した。


結果として、卒業パーティは私をエスコートする事になったアロイス殿下。私に笑顔を向ける事無くファーストダンスを踊り終え、さっさと帰ってしまったのだ。


 今までアロイス殿下と共にいた側近達は解散させられ、私に剣を向けた子息は退学となった。その子息は退学となった後、隣国との国境の近くにある騎士団へ入隊させられたようだ。


小さな小競り合いが続いている地域なので怪我が絶えないそうだ。殿下達と離れた事で目が覚めたらしく、謝罪の手紙が公爵家に送られてきた。


 問題のオリビア様はというと、殿下に狙いを定めていたようだ。そして近づく為に側近を含めた複数の人との関係を持っていたらしい。


お腹の子が殿下の子である可能性もあるため、生まれるまでは王宮の一室に軟禁されることになった。


 アロイス殿下は側近を解散させられ、オリビア様が軟禁された事で『お前のせいだ』と私を恨むようになった。


そして新たに付いた側近達はアロイス殿下に苦言を呈する事が多く、それが嫌になった殿下は次々と側近達を首にしていった。その中には私の兄も含まれていた。


残った殿下の側近は必然的にイエスマンばかりが揃い、“ローザアネット様は殿下を見下している”と彼らは殿下に言っていたようだ。

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