第7話正妃選び
「父上、最近回ってくる書類の山、今まで無かったのにどういう事なのですか」
王族のみが使用できるサロン。そこにはツィルトン元陛下とアロイス、ザイルと側妃3名がいた。彼らはソファにゆるりと座りながらも機嫌は悪い。
戴冠式以降彼らは執務をこなさなくてはならず、不満を口にしていたが、執務の手を止めると文官達の仕事が行えないため、仕方なく仕事をするしかなかった。
そしてようやく皆が集まれたのが戴冠式から2ヶ月が経った今日のこの日だった。父の執事がお茶を淹れる。ここには限られた者しか入れずアロイスの執事はまだ入る事が許されていない。
「アロイス、お前はどこまで愚かなのか。お前達が忙しいのは今まで執務を疎かにしていたからだろう?ローザアネットが全て肩代わりしていたに過ぎん。馬鹿者め」
ツィルトンはアロイスの不満に取り合う気はないようだ。
「それに、ローザアネットは何処にいるのです?離縁状まで私宛に従者が渡してきたのです」
その言葉にツィルトンは深い溜息を1つ吐いた。側妃達はローザアネットの話題になると彼女の事を馬鹿にしたような素振りでニヤニヤと笑っている。
目障りなローザアネットの不在と王妃になれるかもしれないと希望を抱いているようだ。
ツィルトンはその様子を見て更に呆れている。
「ローザアネットは戴冠式の1週間ほど前、執務室で倒れたのを知らんのか。そのまま丸二日目を覚まさなかったのだぞ?
医師の診断によりこれ以上執務が出来る状態ではないと判断し、王宮を去らせた。それだけだ」
ツィルトンは仕方なく説明した。
「何故倒れた事を言わなかったのです?」
「馬鹿か、お前は。夫婦ならすぐに分かる事であろう?お前はローザアネットを蔑ろにしすぎた。側妃達もだ。
お前達のせいでローザアネットは心身共に疲弊し倒れた。彼女は執務をこなすことが出来ないのに王妃は務まらぬと辞退したのだ。
前にも言ったが、お前の所にその旨を伝えるため彼女はお前に面会の申請をしたのだ。それを拒否して聞く耳を持たなかったのはお前だ。
そして今まで執務を支えてくれていた宰相も引継ぎが終わり次第隠居し、領地に帰るそうだぞ。あとはお前達がどうにかするしかないだろうな」
「父上、そんなっ。宰相がいなければ取りまとめ役がおりません」
「お前の側近がいるだろう?宰相の補佐官は残ってくれるそうだ、良かったな。あぁ、ローザアネットは次の正妃は誰でもいいと言っていた。儂も同意見だ」
正妃という言葉を聞いて側妃達が色めき立った。
「では私が正妃となりましょう。ザイルの母でもあるのですから」
「あら、サーロア様。貴方の能力では書類にサインするしかできないのでは?」
第二側妃のマリンナが第一側妃のサーロアの発言にクスリと笑う。
「2人とも貴族との折衝は難しいのではないでしょうか。その点私なら隣国の伝手もございますし、私が王妃となった方が上手くいきますわ」
そこに第三側妃のグレースも参戦してきた。
側妃達は少しずつヒートアップしてきたようだ。その場にいるツィルトンもアロイス、ザイル3人とも口を開く事無くこの状況を静観している。
「あら、私、知っていますのよ?兄君を使ってローザアネット様を陥れる噂を流したのは貴方だと言うことを。陛下の信頼が無くなり、側妃に滑りこんだグレース様の手法には私も舌を巻いてしまいますわ」
サーロアがグレースを馬鹿にした様に言った。
「あら、噂だなんて。私には何のことだか分かりませんわ。ローザアネット様を悪役令嬢に仕立て上げたのはサーロア様だという事は知っておりますが。
まぁ、殿下があんな下賤な男爵令嬢に入れ揚げたのは驚きましたけれど」
「馬鹿仰い。悪役令嬢に仕立て上げるだなんて。ただ殿下が意見を求めた時に『そうですわね』と答えただけですわ。ローザアネット様へ罪をなすりつけたのはマリンナ様ですもの」
サーロアはここぞとばかりにマリンナも蹴落としてやろうと巻き込んでいる。
「酷いですわ!私はあの男爵令嬢が泣いて殿下に縋った時に『可哀そうだ』と言っただけですわ。どちらが、とは言いませんでしたが。
勘違いなさったのは殿下ですもの。まぁ、ローザアネット様へ敵意を向けて私が側妃になれたのはあの下賤な女のおかげですわね」
「「ええ、本当に」」
側妃達は王妃は自分しかいないとムキになっており、アロイスに事実を暴露した事に気づいていないようだ。傍で聞いていたアロイスの顔色は一気に青から白へと変化している。
自分の行いを8年という時を経て暴露され、ようやく真実に気づいたのかもしれない。息子のザイルはというと冷めた目で父も母も見ている様子。
ツィルトンは頭が痛いと部屋へ戻っていった。それから側妃達の言い合いはヒートアップし、次の王妃は決まらずまた話し合いの場を設ける事となった。
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