第6話
「ようこそ終の棲家、緑の離宮へおいで下さいました。私、緑の離宮を管理しておりましたアモンと申します。これからはローザアネット様の執事としてお仕えいたします」
私は10日かけてようやく緑の離宮へとやってきた。視察での馬車移動は慣れているとはいえ長旅は疲れたわ。馬車旅での最初の5日間程は体調も万全ではなかったせいかウトウトと寝ながらの旅となった。
ターナを始めとした私を送り届けてくれた護衛達も疲れているに違いない。早く休ませてあげないといけないわ。
「アモン、出迎え有難う。早速なのだけれど、荷物を運び込みたいわ。部屋に案内して頂戴」
「畏まりました」
すぐにアモンは私を部屋へと案内してくれた。部屋は細かな装飾が施された天蓋ベッドや机とクローゼットとカーテン以外何もない部屋だった。
「あら、何も無いのね」
「ええ。全てローザアネット様の好みの部屋になるように最低限の家具しか用意しておりません。ローザアネット様の過ごしやすいように邸を変えていく予定でございます」
「それは嬉しいわ。気遣いありがとう」
ターナの指示で次々と物が部屋へ搬入されていく。主にドレスや宝石などの衣類だ。家具や小物は後から実家の領地の商人に頼んで買うことにするわ。荷物をある程度運び終えると騎士や従者、ターナにも休むように伝える。
私も早く休みたいわ。
誰も居なくなった部屋で早速旅装を解き、シャワーを浴びる。視察には侍女が必ず付いているけれど、最低限しか居ない人数で全てをやらせるわけには行かないのである程度、自分で出来るようにはしてある。
まだ上手く髪の手入れは出来ないけれど、簡易なワンピースに着替えてベッドに転がった。流石に疲れていたようで気づけば目を閉じていたみたい。
ターナが部屋へ入って来た事にも気づかなかったわ。夕食前に起こされて慌てて食堂へと向かった。王太子妃の頃にはありえなかった事だわ。
ターナには『この間倒れたばかりなのに10日間も馬車に揺られていたのです。当たり前です』とちょっと叱られてしまったわ。そして食堂には今回私を送ってくれた護衛騎士や従者が揃って待っていてくれた。
今日、明日は離宮で休んでまた王都へ帰るのだ。私は1人1人に労いの言葉を掛けていく。そしてアモンからこの邸の護衛を紹介された。護衛騎士の名はライト。他にも数名いるらしいが、今は彼が主にいるのだとか。
まぁ、幽閉と変わらない生活なので普段から護衛は少ないのだという。むしろ偶に森から獣が出てくるのでその対策にあたるのが彼の主な仕事らしい。大勢と食事を囲むのはいつぶりかしら。
お酒も入り、ワイワイと飲み明かしとてもリラックスした様子。翌朝は皆遅くに起きたようだったわ。王都や視察では許されない事だけれど、ここは私以外いないし、命令もないのでみな休暇としてゆっくり出来ているみたい。
2日後、出発の時間となった。
みなゆっくり出来たようでよかったわ。中には涙し別れを惜しんでくれる者もいた。
「皆さま、ここまで私を運んで頂き感謝しかありませんわ。どうぞ気を付けて王都へお戻り下さい」
私は手を振りながら馬車を見送った。これで本当に王宮との繋がりが無くなったわ。寂しくもあり、嬉しくもある。でもほっとしたのが一番かしら。その夜から私は熱を出し、1週間寝込む事となった。
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