第5話戴冠式当日 アロイスside

 晴天に恵まれ、国民は中央広場に集まっていて今か今かと陛下が現れるのを待っている。そして街には露店が立ち並び、賑わっていて一部では既にお祭り騒ぎとなっていた。


そして王宮の広間には全ての貴族たちが出席し、見守る中、陛下の引退式が行われようとしていた。


「アロイス王太子殿下、準備は整いましたでしょうか」


従者が入場を知らせに控室へと入ってきた。アロイスは従者の後ろを護衛と共に付いて歩く。流石に国をあげての大きな行事の1つなので護衛がいつもの倍となる数が王族に付き、従者や侍女達も慌ただしく王宮を出入りしている。


 アロイスは通り過ぎて行く従者達を目にしながら上機嫌で歩いて会場に上がる袖口まで辿り着いた。会場の袖には既に3人の側妃と王太子になるザイルを含めた息子と娘達が入場はまだかと待っていた。


そこでアロイスはふと気づいた。


「ローザアネットはまだ来ていないのか。どれだけ化粧に時間がかかっているんだあの女は」


そう呟くが誰も返事をする事なく、入場を促す音楽が流れ、私達はそのまま会場へと入場した。


(ローザアネットは何故この場にいないのだ。正妃なんだぞ)


アロイスは大きく溜息を吐いた。


 開会の式が始まり陛下の引退の儀が神官長の元で執り行われる。父が被っている王冠を神官長へと返納する。神官長は王冠を台座に置き、父の今までの功績を述べて賛辞を送った。


これまで戦争続きだった我が国に平和をもたらした父の功績はとても大きく、貴族たちは父に会場が割れんばかりの盛大な拍手を送った。


そして次に俺の、待ちに待った戴冠式だ。


俺は中央へ一歩ずつ歩き、神官長の前で跪く。神官長から祝福の言葉を貰い、王冠を授けられた。


ようやくだ。ここまで来るのにとても長かった。


俺は感慨深く礼をする。貴族達は拍手を送ってくれたが、父ほどではなかった。これは仕方がないだろう。俺はこれから手柄を立てていけばいいのだから。


 引き続き、ザイルの立太子の儀に移った。これも恙なく終える事が出来てホッと一息吐く。俺は緊張と興奮でローザアネットの事などすっかり頭の片隅からも忘れ去っていた。


 戴冠式も滞りなく終わったし、ここから中央広場に集まっている国民への顔出しだ、と思っていた時。進行役の宰相が会場の中央に歩み出た。


「会場にお集りの皆さま、お忙しい中有難う御座いました。本日より新王となったアロイス陛下。恙なく儀が行われた事に貴族一同、安堵しております。


そして皆さま、お気づきではあると思いますが、正妃ローザアネット様は先日病に倒れ、本日の儀には参加する事が叶いませんでした。


そして医師によりローザアネットは王妃となり国を支えていく事が難しいと判断されました。現在、彼女の病態は重く、静養をしております。


後日、新たに王妃が選出されましたら発表をさせていただきます。お集りの皆さま本日は有難う御座いました。これにて閉会とさせていただきます」


俺は宰相の言葉に驚いた。


他の貴族には分からないように表情は取り繕ってはいるが。


どういう事だ、ローザアネットが病に倒れたなど聞いていないぞ。


貴族達は宰相の発言にどよめいている。それはそうだろう。俺だってどうなっているのか知りたいのだ。従者の案内で会場の袖に捌けるとすぐに俺は父に詰め寄った。


「父上、どういう事でしょうか。私は聞いておりません」


「・・・アロイス。先日お前はローザアネットの面会を断ったのだろう?それに手紙にも目を通していないのだな。話にならん」


「アロイス陛下、国民が待っております。すぐに中央広場へ。ツィルトン様、お疲れ様です。このまま執務室へどうぞ」


「そうだな。アロイス、儂をこれ以上失望させるな」


俺は口を開こうとしたが、宰相が俺たちに急げと促し、父は従者に案内されこの場を去っていった。


「アロイス様、良かったですわね。ようやくローザアネットと離れられて。ふふっ嬉しいですわ。第一側妃の私が王妃となりますわね」


「あら、サーロア様。それは難しいのではないかしら。ふふっ」


「側妃達よ、子供達の前だ口を慎め。その事は後だ。ではいくぞ」


 宰相は口を開く事無く国民たちの待つ中央広場の方へと向かう。俺達もその後に続くよう移動した。




広場の会場へと出るとそこには人、人、人で埋め尽くされていて俺達の姿を見つけると国民から歓声が上がった。


そして歓声の中から『ローザアネット王妃様が居ないぞ』『あの噂は本当だったのか』等祝福の声と共に聞こえてきた。それを耳にした王子達も少し居心地が悪そうにしている。


仕方がない。ローザアネットは誰よりも国民に愛されていると言っても可笑しくないほどだったのだ。


 俺達は民に手を振り、お披露目は約10分程で終わった。肌で感じた国民との熱の差。王妃に、いやこの国の頂点にと望まれるのはローザアネットなのだと。まざまざと見せつけられたようで苦虫を嚙み潰したような気分だ。


それは側妃や子供達にも伝わったようで皆、祝いの日だというのに今にも言い争いになりそうな程冷えた空気がその場を支配していた。

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