第4話
「お嬢様、宰相様から手紙が届きました」
私はターナから手紙を受け取る。手紙に目を通すと、そこには緑の離宮へ行く許可が降りた事が書かれていたわ。準備出来次第すぐにでも移動してもいいらしい。
「ターナ、緑の離宮へ下がる許可が降りたわ。今すぐ準備をするわ」
「かしこまりましたっ。ようやくでございます」
ターナはいつになく力が入っているみたい。今からすぐに用意して、3日後には王宮を出られるわね。そうすれば陛下の引退式や、アロイス王太子の戴冠式のついでに王太子妃が病気療養に入ると民へ知らせる事が出来るし丁度いいわ。
私はそう考え、侍女達に荷物を詰めるように指示していく。緑の離宮では街に出る事もない。舞踏会はもちろんお茶会も一切ないのでドレスを新調しなくてもいい。
それに王太子妃としての給与を今まで使う事は殆ど無かったので貯金は沢山ある。生涯緑の離宮で楽しく過ごしても問題はないわ。それに何かあればドレスや宝石を売ればいいのだもの。
倒れて目覚めた時はあんなにも重く動く事が出来なかった身体はかなり回復してきたわ。
馬車5台に詰め込まれた荷物と共にひっそりと王宮を出る日がきた。
緑の離宮には護衛騎士、庭師や料理人と執事が最低限の人数で配置されているそうな。ターナは私に付いて来てくれると言ってくれたわ。そしてこの緑の離宮と呼ばれる邸は王領にあるのだが、深い森に囲まれていて昔は王族の幽閉の為に使われていた事もあるそうだ。
今はそうではないけれど。
私が緑の離宮を選んだ理由はグラード公爵領が隣にあるからなの。隣国と接しているグラード領は貿易で栄えているといっても過言ではないわ。グラード領は鉱物だけでなく小麦も生産しており、様々な所と取引している。
そんな実家の領地には知り合いも沢山いるので呼べば来てくれるし、王都では手に入らない物も入手する事が出来るの。
私は緑の離宮から出る事は出来ないけれど、寂しくはないわ。ただ、王都から遠く片道10日ほどかかってしまうの。私が出発して到着した頃には新しい陛下と新しい正妃になっているわね。
「ローザアネット様、準備が整いました」
ターナの声でふと我に返る。
「ターナ、有難う。陛下に最後の挨拶だけして出発しましょう」
私はそう言ってターナに支えられながら陛下の執務室へと向かった。今日は質素な旅の装いをしている。いつもと違う髪型や化粧、服装をしているせいか通り過ぎる貴族や文官達は私がローザアネットであると気づいて居ない様子。
私は誰も気づかない様子に可笑しくなった。8年間休まず毎日仕事をしていたのに誰も私の事なんて気にも留めていなかったのね、と。
陛下の執務室前に到着すると事前に知らせを出していたので従者が一礼をして扉を開け、私は中に入る。
「アサルカルナの太陽、ツィルトン陛下。この度、謁見の実現に喜び申し上げます」
私は礼をしながら言葉を口にする。
「硬いことはよい。ローザアネット、もう旅立つのか?」
「はい。陛下には最後まで良くして頂いて感謝の念に堪えません」
「うむ。無理を強いたな。ゆっくり静養するのだぞ。ところでアロイスとは話をしたのか?」
「いえ、私が苦手なようで面会の申請を出しても許可が下りませんでした。ですから手紙を書いて従者へと渡しておきました。そのうちに読まれると思います」
「・・・そうか。あいわかった。気を付けて行ってくるのだぞ。我が義娘よ」
「今まで有難うございました。お義父様」
そうして私は挨拶を終えてひっそりと緑の離宮へと旅立った。
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