第3話国王陛下執務室
「ツィルトン陛下、ローザアネット正妃が倒れた事は耳に入りましたかな?」
宰相は国王陛下の執務室に入ると同時に陛下に声をかけた。
「あぁ。あの馬鹿息子のせいでローザアネットは倒れたのだろう?宰相」
「では、話が早いですな。医師からの診断でもあります。王太子妃を離縁し病気療養のため緑の離宮へと向かわせます」
陛下は持っていた羽ペンを机に投げるように置き、ふぅと息を吐いた。宰相はその様子を見ても眉1つ動かさない。
「我が息子は優秀だと思っていたのだがな。恋に狂い視野も器量も狭くなり果てた」
「・・・否定はしません」
宰相は顔色を変える事無く書類を陛下の机に置いた。
「アレ以外跡を継ぐ者がおらんのが残念だ」
「では継がせねば宜しいではありませんか。次代は優秀な男児が4人もおりますよ」
「アレが納得するわけないだろう?」
「ええ、納得しないでしょうね」
宰相は自分でお茶を淹れるとソファへと腰掛け、1人でお茶を飲んでいる。ツィルトンは宰相の様子を再度持った羽ペンをひらひらと遊ばせながら見ている。そして宰相は忘れていたと言わんばかりにカップを置いて手を叩いた。
「あぁ、陛下。ローザアネットが緑の離宮へと移動した後、私も引退し家督を息子のグレイストンに譲るつもりです」
宰相がそう言うと、ひらひらと舞っていた羽ペンはピタリと止まった。
「宰相、本気か?」
「ええ、陛下も引退なさるのです。私が引退しても可笑しくはないでしょう」
「いや、それは困るぞ。誰がアロイスを支えるのだ?」
「それは彼の側近達が頑張るしかないですね。私は副官をしっかり育てているので何かあれば聞くといい。さぁ、陛下その書類にサインを。どちらにしろローザアネットは業務をこなせない程疲弊しているのです」
「・・・そうであったな。派閥のバランスや優秀さ、外交力、容姿、民の人気、どれをとってもローザアネットは次期王妃に相応しい。今でも彼女以外居ないと思っておるがな、ローザアネットには苦行を強いた。解放する事は出来んが、離宮へ向かわせるのは許可しよう」
そう言うと陛下はサラサラとペンを走らせ印を押す。
「あぁ、陛下。別件だが隣国の動きが少し怪しい。陛下の引退後にきな臭くならないように新しい陛下に付く側近達に注意喚起をした方がよいかもしれませんな」
「そうか。分かった」
そうしてお互い暗澹たる思いを抱えたまま執務に戻っていった。
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