第2話小岩井駿太の入店②

「いらっしゃーい!」

 ビールジョッキを二杯ずつ両手に持つ女性店員、高丘たかおか亜蓮あれんの眼差しは店内照明よりも眩しかった。隣席の空いた皿を下げる褐色肌の男性店員にも目を光らせ、亜蓮自身が飲食業に適性があるという自負が全身から溢れていた。

「カウンター席とテーブル席、両方空いていますよ」

 亜蓮の誘導は背後から遮られた。

「亜蓮、個室にご案内して」

 女性の眼差しは鋭く、一重瞼にアイシャドウを施せば貫禄がさらに増していただろう。女性のメイクが髪の色に近いアイブロウと素肌にほど近いローズ系のリップのみだということは、男性である駿太が見ても分かった。

「ご案内したら、あとは私が対応する。亜蓮はドリンク場に回ってくれ。遥貴は亜蓮から引き継ぎを受けるんだ。普段亜蓮がどんな視点で仕事しているか分かるチャンスだぞ」

 褐色肌の南越なんごし遥貴はるきが一目見ると、亜蓮はホール全体を見回していた。女性の意図を察し、彼女は自らの失念を悔しがっていた。

「亜蓮も、今日新たに得る視点を遥貴に共有してやれ」

「はい、店長」

 居酒屋 龍ノ牙の店長、塩澤真知子。彼女の采配が駿太を変えることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る